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2012.08.20(月)
とにかく先に部屋を片付ける、という怜が楽器を別の部屋に運び出すのを明羅もいいのかなぁ、と思いながら手伝った。
「あ、ギターは置いてもらっててもいい?」
「お?弾けるのか?」
「ちょっとはね」
それからパソコンのデスクを移動して、シンセサイザーとかミキサーとか明羅の使いやすいように配置をしてくれる。
「なぁ、ヘッドホンじゃなくて音出して」
すっきりとすっかりスタジオみたいになった部屋で怜が言ったのに明羅は頷いてパソコンを立ち上げた。
中にこの間作った曲が入っているので聴かせろと言った怜の為にそれを流した。
「うわ、音いい。ねぇ、怜さん使わないのになんでこんなに揃ってるの?」
「………してみようとは思ったんだ。まず形から入らないと」
それでいいもの揃えて…。使わない?
明羅は笑いたいのを我慢した。
「…別に我慢しないで笑えば?」
怜がぼそっと言うのに溜まらず明羅がふき出した。
「俺の役には立たなかったけど、お前の役には立つだろう?」
「そりゃもう!」
「……いいけど、これもピアノに編曲してもいいのか?」
今流れているのはCM用なので機械で色々な音を使っていた。
「勿論。元々やっぱり俺はピアノで考えるし。それにこれだって怜さんの音聴いたから出来てるから」
「…………じゃこれも楽譜出しといて」
「うん。いいけど…」
怜さんが考え込んでいたのに明羅は首を捻った。
どうしたのかな?
「お前こっちに籠もるか?」
「え?うん…。怜さんがいいなら」
「当然」
怜さんはそう言って携帯を出して部屋を出て行った。
どこかに電話をかけるらしい。
明羅はヘッドホンをしてパソコンに向かった。
怜の柔らかな音が明羅の頭に残っている。
いくらでも怜さんの音で想像出来る。
音を機械に打ち込みながら、そういえば<愛の夢>聴いてないな、とチラッとだけ思った。
それは頭のすみにおいて、明羅の作ったソナタが激しい曲だったので、綺麗な透明感の出る曲を目指す。
コラール風もいいけど…。やっぱり怜のカンパネラを聴いたらロマン系がいいかな、とも思う。
情熱的なのもいいけど。
あまりにも次々と浮かんできて纏まらない。
だが音を入れていくとだんだんと見えてくる。
これだけで終わりではないのだ。
いくらでも作られる。
楽しい、と明羅は今までと比べ物にならない位に曲が作りたい、と思った。
「う、あっ…」
「お?意識が戻った」
明羅が後ろを振り向いたら部屋に怜がいた。
どこから持ってきたのかカウチソファに横になって楽譜を眺めていた。
「お前、全然何も聞こえないのな?」
明羅がはっと窓を見たらすでに夜。部屋に電気もついていた。
「……ごめんなさい」
「何が?」
怜がふっと笑った。
「え、と…色々…」
人の家に厄介になって境遇までこんなによくしてもらって、何もしないでパソコンに熱中ってダメだと思う。
「え、と…怜さん聴いてもらっていい?」
「は?もう?」
「うん。小曲だけど」
ヘッドホンではなくて部屋に曲を流した。
怜さんは黙って聴いている。
曲が終わってもしばらく怜さんは口を開かない。
「…タイトルは?」
「え?…考えてない、よ?」
「…ロマンス、かな?」
そうそう!明羅はこくこくと頷いた。
「…纏まって曲作れるか?」
「纏まって?」
「そう。今のみたいな曲集めて小曲集みたいなでもいい」
「…多分、しようと思えば」
「よし、しろ。そういやあのソナタにタイトルは?」
「え~、考えてない。………ハッピバースデイ?」
怜がお腹を抱えて笑った。
「おま…曲と全然あってねぇだろ。分かった。お前に文才はない…」
「…ない、かも」
しいてあげればあのソナタは<今の二階堂 怜>だと思うけど。弾き方によってもいくらでも変わってしまうだろうし…。なんだろう??
「……献呈、でどうだ?」
「あ……」
明羅は言葉を飲んだ。
そしてこくこくと頷く。
「お前…作った本人が…」
怜は笑いが治まらないらしい。
「ハッピバースデイ…って…」
「ただ言っただけだからっ!」
「分かってるって。さ、飯にするぞ」
「ん…」
明羅はパソコンの電源を落とした。