7 翔太(SHOUTA)
あれ?昨日いつ和臣の布団に入ったっけ?
翔太は朝起きて目の前にある顔にちょっと考える。
風呂場から和臣を呼んだあとの記憶は断片的で出た後の記憶は途絶えている。
「和臣」
「ん…」
和臣の切れ長の目がゆっくりと開く。
こういうの端整っていうのかなぁ、と妙に納得してしまう。
「俺、昨日どうしたっけ?」
「…風呂場で意識が飛んだ」
「………スミマセン…」
ということは和臣が翔太を運んでくれたのだろう。
和臣が身体を起こして欠伸をする。
和臣は寝る時も寝巻きが多くて、それがはだけてるのに赤面しそうになる。
ずっと見てる姿なのになんで恥ずかしいのか。
翔太にも寝巻きを着せられていた。服より着せるのが簡単だからだろうけど。和臣のは前がはだけてる程度だけど翔太のは帯だけでとりあえず着物が留まってるという状態だ。
そそくさと前をかき合わせて身なりを整える。
女の子でもないんだから気にする事はないと思うけど。
和臣が布団を出て着替えをする間に布団を押入れに片付ける。
それはもうずっと翔太の仕事だった。
別に頼まれたわけでもなんでもない事だけれど、なんとなく、だ。
一条家に、和臣に迷惑をかけているだろう事は分かっている。
だから少しでも自分が出来る事ならしようと思って始めた事だ。
それでも布団を干したりしてくれるのは一条家に通いで来てくれる家政婦さんだけれど。
「翔太、車で一緒に行くんだ」
「イヤ、です~。なんでそんな早くに行かなきゃないんだ?俺は普通の時間に行くからいいです~」
はぁ、と和臣が溜息を吐くけどとりあえずそれ以上強くは言わなかったのに翔太はほっとする。
べつに和臣と一緒にいるのが嫌なんじゃないけど、周りの視線とか反応とかには結構気疲れする。
一条の後継ぎで大の大人さえも媚び諂うような和臣の隣に付属品のようにたっているとコレは何だ?誰だ?という視線が刺さる。
そんなのは別に痛くも痒くもないけれど。
翔太は自分が特に何に秀でているわけでもない事は自分でよく分かってる。
能力がない者を好まない和臣がよく自分を傍に置いてるよな、と翔太自身でさえ不思議に思う位だ。
「和臣様、本日は夕方須崎の会長から和臣様に会ってお話したい事があるので屋敷の方に来て欲しいと連絡が入っていたのですが」
母屋に行って朝食。
朝食は和臣と翔太の二人。
和室の座卓ではなく、家族だけの食事時の為のダイニングの広いテーブルに並んで座って食べる。
和臣のお父さんは忙しい人だから滅多にいなくて、お母さんは低血圧で朝が弱く、弟の敦臣くんはまだ幼稚園で時間帯がもうすこし遅い。
食べる二人の脇に立って予定を話しているのは秘書の本間さん。
和臣のお父さんの第3秘書という肩書きだけれど、ほとんど和臣用な感じだ。
「…今日は生徒会の方の仕事も少ししかないので大丈夫だ。…行きたくはないが」
「…畏まりました。何時ごろでしょう?」
本間さんは行きたくないと言った和臣の言葉は完全にスルーする。
「学校を終わったらすぐにその足で向かおう。制服のままになってしまうが」
「あちらも秀邦のご出身ですからそこはかえって喜ばれるのでは?」
「ならばそれでいい。そう伝えておいてくれ」
「畏まりました」
絵に描いたような和食の朝ごはんの席での会話を終えると本間さんは一礼して出て行った。
「翔太はどうする?」
「どうするって?」
「一緒に…」
「行きません!俺は普通に電車で帰って来ます!」
なんでそんな大臣にまでなった人の所に自分が行かなきゃないのか!
和臣が連れて行こうとしてる意味が分からない。
「……そうか。じゃあなるべく早めに切り上げてこよう」
暗くなられたら確かにそれは嫌なので翔太は小さくそこは頷く。
すると和臣が満足そうな表情をした。
何が満足なのかやっぱり意味が分からない。
「早く帰って来てね?…とでも言わないか?」
「はぁ?誰が?誰に?」
何言ってんだ?
びっくりして和臣をじっと見た。自分が和臣に?
勿論離れに夜一人となったら恐いけど、だからってなんだ?その言葉は?
「…意味ワカンネェ」
和臣がは、と嘆息した。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学