8 翔太(SHOUTA)
和臣は自家用車で送られ学校へ。
その和臣より大分遅れて翔太は一条の家を出る。
生徒会会長の和臣は校門で登校してくる生徒の身なりチェックをしているので早く出て行くのだ。
翔太は勿論それに関係ないし、誰かに和臣を一緒の所を見られたら面倒だ。
だって和臣はやっぱり学校でもカリスマだ。
そりゃそうだ。将来はもう約束されているし、それになんでもすごいんだから。そして秀邦に通うのはそれなりの上流の生徒も多い。
高校から外部で入ってきたやつは本当に頭いいヤツとかが多いけど幼稚園から通っているのは選ばれた家柄の子供達だ。
そいつらは和臣の事は勿論知っている。きっと親から和臣に顔を覚えてもらうようにとか、できれば仲良くなれって言われてるだろう。
そんな和臣に自分みたいなちんちくりんが一緒にいたら何言われるか。
電車に揺られて学校に向かう。
電車にも秀邦の制服がちらほら見えてきて、駅で降りるとまた学校まで歩いていく。その途中で派手な頭を見つけた。
たっと走って翔太はその人に近づいた。
「おはよ!柏木」
「…っす」
なんか沈んだ感じだ。
「どうかしたのか?」
「え?ああ。まぁ…ね」
背が高いのに、髪も目立って、顔だって文句なしにかっこいい部類に入るだろうに今日はなんとなく冴えてない。
それでも何も言う気はないらしいので翔太も聞き出したりはしない。
「今日からもうみっしり授業だね~」
「そうだな」
翔太はそれだけであ~あ、という感じだが柏木は別にソコに不安はないらしい。
高校から秀邦に来るくらいじゃ頭はいいんだろう。
あまり頭の出来がよくないのに高校から秀邦に入ったのはきっと翔太が初めてかもしれない。
ついていけるのか不安で仕方ない。
「柏木って電車?」
「いや、歩き。ウチからゆっくり歩いても30分位で着く」
「へぇ~!そうなんだ!近いね」
「まぁね」
そんな事言いながら校門に近づいて行く。
生徒会の面々が並んでいた。
和臣の隣には二宮副会長。
やっぱり見るからに出来る!って感じで、和臣も信頼出来るって言ってたくらいだし、その二人が並んでいるのに入っていけない雰囲気だ。
「オハヨウゴザイマス」
目を合わせない様に俯いて周りの生徒と同じように挨拶する。
周りが憧れの目で生徒会の役員を見ているなか翔太はわざと柏木の方を見た。
「今日雨降んねぇかな?」
「…どうだかな」
どうでもいい話題。
柏木も生徒会を方を見ないで前だけを向いていた。
帰り道。
和臣は車でそのまま須崎の家に行く予定だったし、翔太は一人で電車に揺られていた。
正直勉強はキツイかも、とレベルの高い授業に嫌になってくる。
中学校の時馬鹿でもなかったけどほどほどの平均ばかりだった翔太には秀邦はキツイ。
入試の時も和臣にかかりっきりで勉強をさせられてギリだったと和臣から聞いた。
やばいなぁ、とちょっと先が不安で、やっぱり和臣に教えてもらうしかない。
なんでも和臣ばかりに頼ってで、それはちょっとどうだろう…とも思ってはいる。
将来的には自分の父のように運転手とか、何でもいいから和臣の役に立つような仕事に就きたい。
本当は秘書になりたかった。でも自分で無理なのはよく分かってる。
段取りは自分の事も出来ないし、記憶力だって怪しい。
じゃあ父のように運転手?と思ってもどうも落ち着きない自分に出来るとも思えない。
会社にといってもやはり優秀な人ばかりの中に入って出来るか、と言えば無理だと思う。
どうしたって和臣の役に立つなんて出来ない。
こんなんじゃいつ和臣に捨てられてもおかしくない。
どうにかしたいのに、と自分だけ空回っている。
身の回りの世話なら出来るけど…。
それはちょっと違うと思う。
はぁ、と翔太は溜息を吐き出した。
それよりなによりあの恐怖のパニックを治すのが先だ。
でも昨日和臣は治さなくていい、みたいな事を言ってたのを思い出した。
高校生の男が男に抱きつかれてキショイだろうに。
まぁ、小さい頃からだから慣れてるといえばそうだろうけど、さすがに普通であれは出来ないと思う。
いや、翔太は出来る。
だって好きだから。でも和臣は?
あれは和臣にも責任があるからしてくれてるんだろうけど。
パニックになっている時はひたすら和臣は甘えさせてくれる。
あれが嬉しくて…。
いや、わざとじゃない!怖いのは本当なんだから。息が苦しくなるのも本当なんだから。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学