9 翔太(SHOUTA)
柏木は見た目が派手でチャラい感じがしたけどそうでもないらしい。
昼は図書委員だからと弁当を食った後図書室に行く。
そんなに図書委員って当番あったっけ?と思ったけど、本好きなんだろうな、と思っただけだ。
朝校門で和臣が睨みつけるようにしていたのに気付いた。
何となくそれを避けたくて柏木の影に隠れるようにしてしまう。
いつだかは副会長ににこやかに笑みを浮べられて挨拶されたのに焦った。
「柏木とは随分仲がよさげだな」
「え?ああ。うんアイツいいやつ!真面目だし」
いつもだいたい先に帰って来てるのは翔太だ。和臣は生徒会の役員会とか決めなきゃ行けない事とか色々忙しいから。
「真面目?」
「うん。図書委員だって毎日昼休みに図書室行ってる。本も好きなんだろうな」
「……へぇ。見かけによらないな」
和臣が制服を脱ぎながら感心したように声を漏らした。
「でしょ?俺を馬鹿にしてる所もないし。勉強で分かんねぇとこも教えてくれるし」
翔太が箪笥から着物をだしながら言うと和臣が顔を顰めた。
「うん?アイツに教わっているのか?勉強ならいつでも俺が教えるのに」
「え?いいよ。和臣忙しいだろ。それにアイツ文句言いながらも優しいし」
「…………」
和臣の周囲の温度が下がった。
あれ?
翔太は何かまずい事言ったか?と首を捻る。
「それじゃアイツに勉強を教わるといい」
むっとした声。
勉強教えてもらってるのがダメだったのか?
「翔太」
さらりと着物を身に着けた和臣に呼ばれてそこに座れと指で指示され、翔太は立っている和臣の前に座った。
「何?」
和臣が屈んで翔太の顎を掴んだけど顔が怒ってる。怖い。
なんでこんなに怒ってるんだ?
「じゃあ俺は勉強以外を教えてやろう。この間もしてやっただろう?」
「勉強以外…?この間…?」
なにそれ?と聞こうとしたら怒ってる和臣がキスしてきた。
「んんーーー!!!」
翔太はどんどんと和臣の胸を思い切り叩いた。それでも和臣はびくともしないでさらに翔太の口をねじ開けて口腔に舌を入れてくる。
「やっ……!」
どうにか声を出すけれどそれも塞がれる。
なんでこんな事すんの?
「…翔太は誰ともしたことないだろ?」
「あ、るわけないだろっ!」
口を離した和臣がふ、と笑ってそう言った。
なんで?どうして?
翔太は泣きそうな顔をして和臣を見た。
「なんでこんな事すんだよっ!」
「ああ?別に。勉強を柏木に教わってるなら俺もお前に何か教えないとな」
「意味分かんねぇよっ!」
まだ顎はつかまれたままで顔を突き合わせている。
翔太は和臣を好きだ。
だけど今のは違う!
別に翔太が望んだ事でもないし、和臣はただしただけだ。
そんなの虚しすぎる。
「…なんだよ……それ…」
教えるとかそうじゃないだろ。
キスって教わるモンなの?
好きだ、って言ってキスするなら嬉しい事なのに…。
そうじゃなくてただしただけ。
それだって翔太に拒否は出来ないんだ。
心では嬉しいと思ってるところもある。そして表面上では翔太が和臣に逆らう事は出来ない。
だって翔太の生活は全部和臣にかかってるから。
違う。本当はもう高校生なんだから和臣と離れて父と暮らしたっていいんだ。忙しい父だけどたまには時間あるしそうしてもいいのにしないのは翔太がここにいる事を選んでいるからだ。
父からは一緒に暮らそうか?と言われた事もあったけど和臣と一緒にいたいからそれは断ってここにいるんだ。
恐怖の時が不安だっていうのもあるけど、それはきっとここにだけで他には何も思わないのかもしれないけど、それでも和臣の傍にいる事を選んでるのに。
教えるって……。
泣きそうになるのを必死に我慢する。
「……何故泣きそうなんだ?」
不思議そうに言う和臣の体を突き飛ばして翔太は立ち上がって自分の部屋に走った。
和臣のバカヤロー!
なんだよ…。
なんで…。
それなのにキスされたのが嬉しいなんて自分はもっと大バカヤローだ。
翔太は自分のシングルのパイプベッドにうつ伏せになった。
ちょっとだけ涙が流れる。
和臣は追いかけてくる気もないらしい。
それがまた悲しくなってくる。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学