11 和臣(KAZUOMI)
朝、翔太と一緒に登校する柏木を毎日睨みつけていた。
いや、それはわざとではなかったのだが、自然と睨んでいたのだ。
翔太が屈託なく柏木の横で笑っているのが気に入らない。
翔太は和臣の前でそんな笑顔などめったにしないのに。
柏木相手だとこれでもかっていう位に笑っている。
イライラは我慢出来なくなってきていた。
「………」
柏木がちらっと二宮の方を一瞬だけ見た。
「?」
その時ふっと柏木の住所と二宮の住所の番地が隣な事に気づいた。
隣の二宮を見たら二宮も眉間に皺が寄っている。
そういえばあまり表情には出ていないが二宮もどこか苛立っているようだった。
これはもしや…。
いや、確信は持てないけれど…。
希望的観測もあるかもしれないが…。
昼休み、生徒会でちょっと集まるという時間の前に二宮が図書館に行ってくると弁当を早く食べて教室を出て行った。
そういえば前に翔太が柏木が図書委員で昼休み毎日図書館に行ってると言っていたような…。
でもここしばらく二宮は図書館に行っていなかった。
違うのか?
考えても人の事情など分かりはしない。
和臣は弁当をさっさと平らげて生徒会室に向かった。
二宮が急ぎ足で生徒会室に姿を現した。
「すまない。遅れたか?」
「いや、大丈夫だ」
急いだからか?二宮の顔が仄かに赤くなってる。
しかも表情が朝とは大分違って見えた。
「……随分と機嫌いいようだな」
「え?そうか?別に変わらないと思うけど?」
二宮は表情をあまり読ませない。こういう所は自分とよく似てると和臣は思う。それでも今はどう見たって表情が柔らかくなっている。
「何かいいことでもあったのか?」
「いいこと…?いや。別に、ただ元に戻っただけ、かな」
元に戻った…?
「ふぅん…。よく分からないが……それは二宮の隣の家の茶色の番犬の事でか?」
ちょっとかまをかけてみる。
「………は?…………和臣、何言って?」
二宮は一瞬表情を変えた。当たりか?
「生徒の住所録見ればわかることだ」
和臣は生徒の情報は頭の中に入っている。二宮と柏木のデータを頭で重ねれば小中学校もずっと一緒だ。隣の家でずっと一緒で知らないはずはないだろう。そして朝の柏木の視線と二宮の苛立ち。さらに図書委員で昼に図書館に毎日行ってるという柏木に図書館に行った二宮。
これは当たりだ。
「あいつの本命は二宮か?」
「……は?」
和臣はじっと二宮を見た。二宮の反応は?
「本命?」
「…違うのか」
二宮が首を捻ったのに和臣はちっと短く舌打ちが出てしまった。
どれだけ自分は苛立っているんだろう。
まったく翔太に振り回されるなんて思いもしなかった。
いや、振り回されるのはあるけど、嫉妬など。
見苦しいかぎりだが自分でも抑えようがないんだから仕方ない。
「翔太、今日も柏木は図書館に行ったか?」
「え?うん。行ったよ。どうかした…?そういや図書館から帰って来たらチョーご機嫌だったな」
家に帰って来て制服を脱ぎながら翔太に聞いてみればやはり、と和臣はにやりと笑った。
なんだ、そうか。柏木は二宮が好きで翔太はどうでもいいんだ。
それに安心して和臣の機嫌もよくなる。
しかし今年の1年で学年一可愛いと影で言われている翔太と学年一格好いいと言われてる柏木が常に一緒に行動で、クラスも同じだから仕方ないと分かっても、付き合ってるとかいう噂がすでに聞こえてくるのには腹が立ってくる。
実際自分と二宮もそんな噂になっているのは知っていたし、そんな事など微塵もないのだからただの噂だ。
そうは分かっていても、事が翔太の事だとどうしても鬱屈した思いがよぎるのに自分に腹が立ってくる。
翔太を見ていてもただ純粋に柏木を友達としか見てないとわかる事。
分かっていても、この嫉妬という思いは厄介なものだ。
「和臣?着物?」
「いや、Tシャツでいい」
「…うん」
翔太が箪笥から和臣の着替えを出してくる。
いったいいつから翔太はこんな事をするようになったんだっけ?
思わず考え込む。
離れで暮らすようになって和臣の着替えを出したり片付けたり、布団もそうだ。
洗濯物出したりしまったりもそう。
和臣が言ったわけでもないのだが。
別にそんな事する事もないのに…。
翔太から着替えを受け取りながらそう思った。
しかし翔太はこの間のキスの事などまるでなかったかのような態度だ。これはどういう事なのだろうか?
テーマ : 自作BL小説
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