13 翔太(SHOUTA)
「言わなきゃ何もはじまらねぇだろ。それにお前さっきキス、なんて言ってた位だからされたかなんかしたんだろ?」
「え!え!な、な、なんで!?」
「キョドるな!」
ぶっと柏木が笑う。ほんと頭の回転いいヤツって!
「俺はお前にキスは無理っ!…でもその相手は大丈夫って事だろ。つう事は脈ありなんじゃねぇの?」
電車の駅に向かう道と真っ直ぐ歩いていく柏木と分かれ道で立ち話をする。
「……いや、それはわかんねぇよ。だから、基本意地悪ぃから、嫌がらせの為だけでもきっとアイツはキスできると思う」
「はぁ?マジで?」
柏木は頭を傾げた。
「そうかな~…?」
「そう。アイツん家って日本家屋なんだけど、重厚で怖いの。小さい時の俺にお化けが出るからね、ってにっこり平気で言うんだぜ?」
柏木がまたふき出す。
「それで?」
「俺は恐くて恐くて…。もう風の音も何もかも恐かったよっ!」
柏木が大笑いしてる。
「僕が助けてあげるって言うから俺はずっとアイツから離れられなくて」
「ははっ!それって独占欲なんじゃねぇの?」
「え?」
「ま、どうか知らねぇけど。でも意地悪くたってお前が素直に可愛く好きだって言ったらまさか馬鹿にしたりとか意地悪はしねぇんじゃね?小さい頃から知ってんだろ?」
「まぁ」
「キスまでされてんだったら余計な心配なような気はすっけど。そいつだってお前の事好きなんじゃねぇの?」
「いや!絶対ないと思う」
柏木が呆れたように翔太を見た。
「ま、とりあえずお前が可愛く甘えるなりしてみたら?一番は好きだって言った方いいと思うけどな」
「甘える…って?」
「抱きつくとか」
「無理無理無理!」
「は?なんで?」
「柏木にならいくらでも出来っけど!」
そう言ってどんと柏木に抱きついてみる。
うん。全然平気。
「なんで俺にこれで本人に出来ねぇの?」
「だって柏木は好きでもなんでもねぇから」
柏木が頭を抱えた。
「これは普通好きなヤツにすんじゃねぇのか?」
「無理っ!」
「わけわかんねぇヤツ。ま、とりあえず可愛くしてみて反応見てみたら?」
「……可愛くがわかんねぇよ」
「う~~~ん……確かに。抱きつくのも無理じゃあなぁ…じゃ手繋ぐとか」
「……それくらいなら…」
頑張ってみる、とぐっと拳を握った。
「……なぁ、柏木はその人と付き合ってんの?」
興味津々で聞いてみる。だって間近でそんな話なんて始めてだ。
「いいや。まだ口説き中。それがまた意地っ張りだから難しいんだけど。俺が我慢我慢だよ。ホント…」
はぁ、と柏木が溜息をついている。
「柏木そんなにかっこいいのにな」
「ああ?そりゃどうも」
素で礼を言っても柏木が言うと嫌味に聞こえない。得なやつだな、と羨ましくなる。
口説き中か。
「柏木から告ったの?」
「そ。言わなきゃ気付きもしねぇもん。絶対。まぁ反応は悪くはねぇんだけど…。なんか信用されてねぇんだよな…」
柏木でも何か色々あるんだ、へぇ、と翔太は顔がにやつく。
「俺ダチとこんな話すんの初めて。いいな」
「そうかぁ~?俺からしたら何が悲しくて好きなヤツがオトコで恋バナすんのも男同士って違くねぇか?って思うけど?」
確かに!と翔太も笑った。
でもちょっと気分は軽くなったかもしれない。
今までずっと一人でどうしてだろって考えてたけど、自分から甘えるとかなんて考えてもなかったから。
「柏木ありがとう。な、また話してもいい?」
「まぁ、仕方ねぇな」
「えへへ~!頼りにしちゃう!」
「いやそれは勘弁してくれ。俺だって進んでもねぇのに」
笑いながらじゃあな、と翔太は柏木と分かれて電車で帰路についた。
電車に乗っても顔が緩む。
まさかオトコが好きだなんて分かられるはめになるとは思ってもなかったし、まして柏木も好きなのがオトコだったなんて。
柏木は別に言う必要もなかっただろうにそれを教えてくれたって事は自分は柏木に信用されているからだ。
今まで仲いい友達なんていなかったからすごく新鮮だった。
なんでこんなにすんなり柏木には話せるんだろう?
かっこいいくせに人懐こいからかな?
それにしたって、柏木に言われたとおりに和臣に自分から抱きつくなんてありえない。
それが出来るのはパニクってる時だけだ。
甘える…?
手を繋ぐ?
どういう状況でそれをしたらいいんだ?
知らねぇし!
やっぱ無理かも…。
翔太は電車に揺られながらげんなりした。
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