15 翔太(SHOUTA)
本当なら嬉しい事なのに。
ただ、それが互いに好きならば、だ。
翔太は好きだけど…。でも和臣は絶対違うと思う。
だいたい和臣が人を好きになる事が想像できない。
いつも冷静な目で人を見ている。
それでも翔太はいくらか和臣に気に入られてると思ってた。
他人を自分のテリトリーに入れない和臣がこうしてずっと翔太といられるんだから、そこは少しはましだと思っていたんだけど。
でも和臣とくっ付いているのは小さい頃からの刷り込みで安心出来るものだ。
くっ付いていれば怖い事はない。
「翔太」
「………」
呼ばれたけど、でも返事はしたくない。
したくなくてもまさかしないわけにはいかないけど。
「………何?」
小さく返した。
和臣に横抱きにされるようになってた身体を和臣が起こして離してくれる。
離されたのに安心と不安の両方がやってくる。
肉体的には安心、精神的には不安だ。
「いや、なんでもない…勉強は?」
「……難しいよ」
「教科書、ノート持ってきなさい」
また何事もなかったようにされるのか。
「……うん」
でもどうしたって離れられないんだ。
いつかは離れなきゃないんだろうけど、今はまだ…。
のろのろと翔太は立ち上がって自分の部屋から教科書とノートを持ってきた。
学校で休み時間に柏木からいくらか教えてもらうけど飲み込みの悪い翔太ではなかなか休み時間だけではキツイ。
それに昼休みは柏木は図書館に行ってしまう。本なんか好きじゃないし、勉強も好きじゃない翔太は一緒に行く気にもならない。
座卓に教科書を広げて和臣に見てもらう。
頭のいい和臣にしたらこんなに飲み込みの悪い翔太なんか面倒だろうにそんな事は一言も言わずに丁寧に教えてくれる。
そういえば柏木もそうだ。
優しいんだよな…。
ん?……って事は和臣も優しい、んだ…。
けど…、なんかそうは思えないのはどうしてなんだろう?
「…………時間がかかりそうだ。食事はこっちに運んでもらおう」
和臣は立ち上がって内線で母屋に電話して夕食はこっちにと告げていた。
そのままずっと勉強を見てもらって、夕食を食べてまた勉強。
秀邦の中ではお馬鹿な部類に入ってしまうだろう翔太のために貴重な和臣の時間を取ってしまっている。
「…仕事、の手伝いない、の?」
「今の所ない。いいから次、こっちの問題解いてみろ」
言われるまま従う。
和臣の言う事は間違いがない。
わかってるけど…。
でも好きじゃない勉強にだんだんと眠くなってくる。
そういえば柏木に甘えてみろ、って言われた。
抱きつくのは無理でも手つなぐって…。
でもこんな状況でどうしようもない。
それになんかキスまたされたのに。
なんでする、んだろ…?
「翔太?」
「え?あ、…何?」
「……もう眠いのか?」
目がしばしばしてきたのに小さく頷いた。
「……ん」
「じゃあ、いい。また明日な。自分のベッド行って寝なさい」
「あ、でもまだ和臣の布団敷いてないから、それして……」
「しなくていい。それ位自分でも出来る。翔太がしなくていい事だ。着替えもそう。別にそんな事しなくていい」
「………え?」
翔太は呆然とした。
「…な、んで?」
「…しなくていいからだ」
和臣はそう言って自分の読みかけの本に手を伸ばした。
「ほら、寝ていいから」
「あ、………ん。おや、すみ……」
「ああ」
ついに翔太の出来る事も取り上げられるの?
そしたらここから出されるのかな…?
まだ高校入ったばかりだけど、出されたら秀邦に通うのなんて無理だ。
せっかく柏木とも友達になったのに。
和臣から離れなきゃないの?
「翔太?どうした?……もしかして、またか?」
「あ、ううん…違うけど……来そうな感じ、はする…」
前もって不安感なんかがある時はなんとなく恐怖が忍び寄ってくるように感じるときがある。
でも今のは嘘だ。
今日は全然そんな感じはしないのに、思わずそう言っていた。
「じゃあ来なさい」
和臣が立ち上がって手を出してきたのに掴まった。
あ、手繋いだ。
そしてぎゅっと握ると和臣は自分の部屋に翔太を連れて行く。
「布団、敷くから」
「いいから」
翔太がするというのを和臣が断り、そして翔太よりもよほどてきぱきと和臣が布団を敷いた。
「先に横になっていろ。電気消してくるから」
「……うん」
もそもそと布団に入って和臣を待つ。
くっ付いていいんだよね?だってほら怖いから。
自分に言い訳して電気を消して隣に横になる和臣にぎゅっと抱きついた。
和臣の手が翔太を安心させるようにずっと背中を優しく叩いていてくれた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学