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熱視線 狂詩曲~ラプソディ~1

 明羅が怜の家に居候してすでに日数は過ぎ、もう夏休みが終わろうとしていた。

 お盆前に怜に連れられて怜のお母さんのお墓にお参りに一緒に行った。
 花火も見に連れて行ってくれた。
 食事にも何回か。
 ドライブも。
 その他はピアノを聴かせてもらって、ご飯を作ってもらって、パソコンに向かって、そして…一緒に寝て。

 でもそれだけ、だった。
 どうして、かな…?
 キスもあの日だけ…。
 やっぱり、怜さんは明羅にそんなつもりはない…?
 でもそれでも明羅は怜から離れられない。
 だって明羅はもう怜がいないという事が受け入れられないと思う。
 だから何も言えない。
 でも怜は明羅に優しいし、頭を撫でてくれたりする。
 毎日夜は腕が身体に絡んでくる。
 それにどきどきして、それだけで、毎日身構えるが怜は全然何する気もないようで。
 …明羅はただ毎日毎日怜にどきどきするだけだった。

 「怜さん…ピアノ、借りていい…?」
 結局ずっとピアノは触っていなかった。
 もう1ヶ月も過ぎて、さすがに指は馴らしておかないと、と思ったのも確かだが、怜が何もしてくれないのにも心が不安だった。
 明羅はもう怜が好きで、怜がジュ・トゥ・ヴを弾いてくれた時は同じ気持ちなんだと思ったのだが、そうではなかったらしい。
 男だから、まさか明羅が勘違いして怜も明羅を欲しいと思ってた、なんて言えるはずもなくて。
 「どうぞ?やっと触るのか」
 「指動かすだけ、だよ…」
 怜はソファに座って明羅の事など気にしていないといわんばかりに楽譜を出している。
 でもすごく気にしているのが気配で分かるのに明羅は苦笑してしまう。
 曲はさすがに怜の前では弾けないけど、でもそれでももう隠さなくてもいいかな、と思えるようになった。
 何しろ曲を作った片っ端から全部怜に聴かせていた。
 自分をさらけ出すような感じで、もう内面が全部知られている気がしてならないのだ。
 怜の音を聴いて刺激され、怜を思って曲が出来る。
 
 明羅はピアノの蓋を開けた。そろりと鍵盤に触る。
 シンセは触っていたけどその感触は比べ物にならないくらい違う。
 自分の音は同じピアノのはずなのに怜の音とは全然違う。
 やっぱりどこまでいっても怜の音は怜の物で明羅のものではないのだ。
 「しかも指が…」
 思ったよりも動かない。
 一日弾かなければ取り戻すのに三日かかるとよく言われるけど、1ヶ月も弾かなかったら3ヶ月?
 別に明羅は人前で弾くわけじゃないから、いいけど。
 ただ黙々と明羅は指の動きを取り戻すためと、心の不安を取り除くためだけに無心に指を動かした。
 
 「なんだ?もういいのか?」
 「うん」
 「……もう少し弾いたら?曲とか」
 「……弾かない」
 明羅は首を横に振った。
 「怜さん、弾いて」
 怜がピアノを弾いている時間は明羅のものだ。
 それに安心する。

 怜もしばらく指を動かし、解す。やっぱり明羅と同じ動きのはずなのに音が全然違う。怜はピアニスト、しかもショパンコンクールで賞を獲った位だから明羅と一緒にしても仕方ないけど。
 いつもの様にバッハ、古典ソナタ、ロマン派、近現代、時代を移行して曲を弾いている。

 うわ!リベルタンゴだ!
 情熱的な南国のタンゴ。
 メロディラインが半音ずつ下がってクレッシェンド。
 明羅の肌が粟立った。
 日本人にラテンのリズムは難しい、けど…。
 全然怜にぎこちない所などない。

 自分で弾いててもかなり気持ちよく弾けるけど、怜のは聴いてるだけでも身体が火照ってくる。
 明羅も好んでよく弾いたが迫力が全然違うのに苦笑してしまう。
 やっぱりこれでもか、と怜は明羅を突き落とすのだ。
 でも全然それは嫌ではない。むしろもっともっとそう感じさせて欲しい。
 快感に近いそれを音楽で与えてくれるのは怜だけ。
 どんなに世界的に有名なピアニストやオーケストラの演奏を聴いてもそれはやってこない。
 すごい!上手い!と思ってもざわざわと背を駆け抜ける感覚をくれるのは怜の演奏だけ。
 小さい頃から世界の音を聴いて明羅の耳は肥えている。
 父の指揮するオケ、母の演奏、またそれ以外もかなり聴いている。
 だが明羅の琴線を揺さぶったのは二階堂 怜だけだった。
 どうしてなんだろう。
 怜の魂の叫びが入ったような演奏を聴く度に明羅は毎回泣きたくなってくるのだ。
 
 

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