19 翔太(SHOUTA)
和臣に言われた事を思い出してちょっと気分が沈んでしまった。
校門を出て思わずとぼとぼと言っていいような足取りになってしまった。
「あ~!知ってる!コイツ1年の三浦だろ?へぇ、初めて間近で見たけどなるほどね~」
翔太が顔を上げるとどうやらサッカー部の連中らしい。サッカー部のジャージを着てるのが3人いた。
口調から2年か3年か?
めんどくせぇと思って無視しようと足を早めたら二人に両わきに立たれた。
そして一人が目の前。
「…なんだよ?」
「へぇ、1年のくせに生意気な口」
背も体格も翔太よりずっと大きい。
そしてにやにや笑いながら翔太を見ているのにちょっとやな感じだ。
「お前の彼氏浮気したんだろ?慰めてやろうかぁ?」
またそれか…!
「彼氏じゃないし。ただのダチだっての!」
ついむきになって翔太が言い返す。
「それにもしそうだったとしてもテメーらなんか頼まねぇし」
「ああ!?なんだって!?」
目の前に立ってるやつが声を荒たげたのに思わず翔太がびくっとしてしまう。
「ああん…?ふぅん?威勢がいいのも悪かないな」
「え~?阿部って趣味悪ぃ~」
翔太の右隣に立っているヤツが翔太の腕を掴まえながら笑った。
「…マワしてヤるか…?」
回す?
「そうだな~。溜まってるし」
前のヤツと今度は左の隣のヤツの会話。腕が掴まれてるのがキモチワルイ。
「離せよっ!」
「離すか。バーカ。おい、部室に連れて行こうぜ。一人見張りな?」
「え~!ずりぃ!」
「あとで交代すりゃいいだろ」
「生意気そうだけど、五十嵐にはもう飽きたしな。今は1年ではコイツだろ」
下卑た笑い。
何…?何を言ってるか分からない。
翔太は顔色が悪くなってくる。
両腕は隣の二人に抑えられていて振り切れない。
もし走って逃げたって翔太は足も遅いし逃げ切れないのは目に見えている。
どうしたら…?
和臣の所に…。
でも、和臣に迷惑かかったら…。一条の迷惑になってしまう。
周りには帰宅する生徒の姿もある。
ちらちらと見られてるのも分かるけど誰も助けようとしてくれる人などいない。
「おい、こいよ」
「嫌だっ!」
翔太は腕を離そうともがいたけれど最初から体格が違いすぎて話にならない。
「なんだよ!逆らうんじゃねぇよ」
どす、と腹を殴られて思わず呻いて膝をついた。
「う!やばい。阿部!会長来たぞ」
「げ!一条か!?ちきしょ…一条じゃ分が悪い。行くぞ。ああ、三浦?気をつけとけよ?いつかマワしてやるからな」
ぎゃはは、と笑いながら翔太を離して3人がいなくなった。
翔太が腹を押さえて膝をついたままだった。
「翔太っ!」
和臣の声にはっとして翔太は痛い腹を押さえて逃げようとした。
和臣の声がいつもと違う。
でも腹は痛いし、足の遅い翔太が和臣に敵うはずはない。
すぐに追いつかれて腕を掴まれた。
「翔太!何故逃げるっ!!」
和臣の怒声に翔太はびくっとして身体を竦めた。
「こっち来い」
和臣に腕を掴まれてぐいぐいと引っ張られて歩かせられた。
「痛い…よ…」
「ん……?翔太?……腹をどうした?」
お腹を押さえていた翔太を見て和臣が眉間に皺を寄せた。
翔太が殴られた所は和臣は見てなかったらしい。
「…腹、殴られた……」
「………何……?」
和臣がぎりと歯を噛んでいきなりドスの利いた声を出したのに翔太はびくっと身体を揺らした。
怒ってる。いきなり。
「……ごめんなさい…」
こんな時は謝るに限る。
「……何を言ってる!?お前が謝るんじゃないだろ!」
「だって……迷惑……」
「ふざけるなっ!!!」
さらに大きな和臣の声に翔太は泣きたくなってきた。
そして周りが和臣と翔太を遠巻きに見ている。
ちっと和臣が舌打ちした。
「とにかくお前は喋るな。そしてちょっと来い」
今度は腕を引っ張りながらもぐいぐいと力任せにはしないのにほっとする。
ほっとしたけど、和臣の背中から怒りの黒いオーラが出てる。
こんなに怒ってるなんて初めてかもしれない。
どうしよう…こんな変な事に巻き込まれて、あげくにいらないなんて思われたら…。
殴られた腹の痛みよりもそっちの方が心配だった。
それにしてもなんで和臣が来たんだ?
「和臣…なんで…?」
「ああ?…生徒会室に1年の三浦が絡まれてるって連絡が入ったからだ」
翔太の聞きたい事を和臣は正確に分かっていた。
「だから!お前は一人では危ないと言うんだ!」
…そんな事いつ言ったっけ?
翔太は思わず首を捻ってしまった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学