20 翔太(SHOUTA)
そのまま生徒会室に連れて行かれ、会議用のパイプ椅子に座らせられた。
生徒会室に他に誰もいなかったので思わず翔太はほっとする。
「…今日は役員会ない、の?」
「ああ。二宮が早退したから中止した。ただ案件があるから俺は書類をまとめてただけだ。そんな事より翔太、腹を殴られただと?見せろ」
「え?でも別にもう…大丈夫…」
「見せなさい、と言ったんだ」
静かに言われて翔太は制服をたくし上げて中に着ているシャツも上げる。
和臣が屈んで翔太の腹に手を這わせてじっくりと見ていた。
「今の所は何もなっていないようだな。息苦しいとかもないな?」
「…ないよ」
さわりと和臣の手が腹を撫でるのにぞくりと背中の毛が立つ。
「どこだ?ここか?」
「ううん、もっと上…あ、そこらへん…かな…」
「……まぁ、大丈夫だとは思うが…。逃げたのはサッカー部の阿部とあと二人だな?」
「よく分かんねぇけど…阿部って呼ばれてた…」
「何言われた?全部言いなさい」
和臣の手が離れて翔太は立ち上がってもぞもぞと制服を直して、小さな声で言われた事を和臣に報告する。
和臣は黙って聞いていたけれどさらに段々空気が冷えてきて、おまけに眉間の皺がさらに深くなっていく。
「…で、和臣が来たから…」
説明を終えて翔太は小さくなって黙った。
「…分かった。じゃ、帰るぞ。来なさい」
和臣が翔太の腕を掴んだ。
「いいよ、電車で…」
「翔太」
許さないと和臣の声が言ってたのに翔太は黙るしかない。
そのまま和臣に腕を掴まれ、結局一条の車に乗せられて一緒に帰ってきた。
和臣に腕を引っ張られて歩いていると、ちらちらと生徒に見られていたのが分かったけれど、和臣に逆らえるはずはない。
「翔太、動かなくていいから静かにしていなさい」
「だって…」
「翔太!」
翔太は自分がさっさと着替えて和臣の着替えの用意とかしようとしたら和臣が苛立った声を出して座卓の座布団を指差した。
座ってろ、という事らしい。
「横になっててもいいから」
「別にもうそこまで痛くもないし」
「いい、と言ってる。何度も言わせるな」
はぁ、と呆れたように溜息を吐き出されて和臣に言われればやっぱり従うしかない。
なんで和臣はこんなにイライラしてるんだろう?
小さくなって翔太は座った。
和臣は今日も着物じゃなくてTシャツにジーンズ。
翔太も同じ格好なはずなのに身長と体格と顔が違うだけでなんでこんなに違うのか。
思わず小さく息を吐き出した。
なんとなく心が落ち着かない。
両腕を掴まれ、目の前に大きい身体が立たれた時恐かった。
まだ日が高くて明るいからいいけれどこれは絶対夜一人は無理そうだ、とざわざわする心を必死に翔太は抑えていた。
和臣はほとんど勉強する事はない。一度聞いた事見た事は忘れないという、人じゃないような能力を持ってるから。
隣の和臣の部屋は寝室と学校の道具が置いてあるだけ。
いつもここの和室が二人の居場所だった。
翔太の勉強を見てくれる時は向かいの翔太の部屋から勉強道具を持ってくるという具合だ。
そして今は翔太は和臣の向かいに座っていた。和臣は書類に目を通している。
多分和臣のお父さんの会社の関係書類だ。
人の顔も一回で覚えられる和臣を社長も重宝している。それでもまだ高校生だからと滅多に公式に一人で出る事はないけれど。
ぱらぱらと紙の捲れる音。
「…和臣」
「なんだ」
和臣は書類から顔を上げないけれど返事をしてくれた。
「……隣、行って、いい?」
触っていたい。不安で仕方ない。
「来い」
すぐに返してくれて翔太はそろそろと場所を移動した。
「翔太、横になってろ。どこにも行かないから」
座布団を二つ折りにして和臣が置いたので翔太は大人しくそこに頭を乗せて横になった。
「手」
手を和臣が差し出してくれたのに翔太が手を伸ばすと胡坐をかいていた和臣の足の上に翔太の手を置いた。
「触ってろ。…恐かったんだろう?」
「……ん」
とりあえず和臣に触れてればパニックは来ない。
また恐かったのを助けてくれたのは和臣で、なんかさらに和臣から離れられなくなった気がする。
ここの離れの事だけだったはずなのに、学校でももしパニックになったら…?
翔太に不安がよぎる。
和臣の書類を捲る紙の音だけが部屋に響いていた。
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