26 和臣(KAZUOMI)
「和臣。なんか敦からメールがきて和臣に伝えてくれって」
「うん?」
二宮が携帯を見ながら話しかけてきた。
「柏木から?」
「ああ。ええと意地悪しないで優しく、だって」
くっと和臣は笑った。
「ああ、分かった」
「それで分かるの…?」
二宮が不思議そうな顔をした。
「ああ、ありがとう」
優しく、ね。
十分優しくしているつもりなんだが。
朝の柏木の意思表示のおかげで柏木に対しての懸念はなくなった。そしてこうして二宮を通じてアドヴァイスを送ってくるという事は翔太が柏木意地悪で優しくないとでも言ってるんだろう。
意地悪しないで優しく、ね。ふぅん…。
翔太は意地悪で優しくないと感じていたわけだ。
和臣的にはべた甘だと思うのだが。
風呂に一緒に入って体まで拭いてやったりしてるのに?
翔太の言う優しいの意味が分からん。
でも折角だから実行してみるか。
昼休み、翔太が気になったが教室から出るなよとメールすると分かったと返事が来たのでとりあえず安心した。
昼休みは番犬は図書館に行ってるはず。二宮の姿もないから会ってるんだろう。
その二宮が番犬を引き連れて教室に戻ってきた。
予鈴までまだ時間があるのに珍しい。
「和臣、敦が…話あるって」
机で一人座って本を読んでいた和臣に二宮が声をかけてきた。
「俺?」
何かあったのか?そういえば二宮の表情が硬い。
しかし2年の教室に姿を見せ、ざわついているのにも柏木は堂々としたもので軽薄そうな外見とはやはり印象は大分違う。
「どうした?」
二宮は自分の席の方に戻っていた。視線だけはこちらを見ていたけれど。
「今、図書館で如が3年の政治家のバカ息子に絡まれて目をつけられたみたいなんだ」
はぁ、と和臣は頭が痛くなる。
「なんだって…まったく。翔太は昨日2年のサッカー部のヤツに目をつけられたんだ」
「は?マジで?」
さすがに柏木も呆れた顔をした。
二人で顔を合わせて溜息を吐き出した。
「柏木、その政治家の、赤井沢はちょっと任せろ。ちょうど家の親父の仕事の方でもしがらみがあって切る所ではあったんだ。だからお前には不本意だろうが任せて欲しい。その代わりと言っては何だが、翔太を見てもらっていいか?学年が違うし、学校内であいつは俺と一緒にいるのを嫌がる」
「見るのはいいすけど…。嫌がる?いや、違うでしょう」
「そうか…?」
「ええ。一応素直にとか、色々言ってはいるんだけど…あいつ素直じゃないね?」
「まぁな。そういう二宮だってそうだろう?」
「え?如はなんでもいいから。意地っ張りも可愛いし」
ニコニコ顔になる柏木に呆れた。コイツは大物だ。あの二宮を可愛い、か。
「じゃあそういう事でいいか?」
「………本当は嫌ですけど」
「まぁ、おまえ自身で二宮を助けたいだろうけど、すまんな」
「いえ、そんな…。じゃお願いします。不本意だけど!あ、でも三浦はちゃんと見るようにしますから」
「ああ、助かる。どうも俺のいう事は聞かないらしい。柏木の言うことなら聞くかもな」
自嘲が籠もってしまっても仕方ない。
何しろ柏木は優しいって言ってて和臣は意地悪でやさしくない、だ。
「まさか!んなわけないでしょ。あいつ暇たって意地悪だ、優しくないを連発してっけど」
「…俺的には優しくしているつもりのはずなんだが。ああ、あと帰り生徒会室にあいつを連れて来てくれ」
「了解っす」
柏木が頷いた。
するとちょいちょいと柏木が手でおいでと二宮に合図している。
「何?」
すぐに二宮がやってきた。
「なんでもないけど。じゃ俺教室戻っから。ああ、と帰り迎えに来る」
「は?」
「二宮、今柏木からきいたけど赤井沢に目を付けられたって?あれはちょっと気をつけた方がいいから、なるべく一人にならないほうがいい。家も隣な彼ならそれこそ打ってつけだから」
「…別に平気」
「だめだ」
思わず柏木と声を揃えてしまう。
「なるべく早めに手は打つようにするけどそれまでは二宮も気をつけないと」
「じゃね、如」
柏木がひらひらを手を振って自分の教室に戻っていった。
「和臣、なんで敦と仲いいの?知り合いだったのか?」
「まさか。彼とは協定を結んだから」
「協定???」
「そう」
くすと和臣は笑った。
「あれは面白いな」
「敦?そう…?」
くすくすと和臣は上機嫌で笑ってた。
問題が一気に片付きそうだ。あとは二宮と翔太の近辺に気を配ればいいだけだ。
柏木が使えるのか拾い物だった。それに二宮が好きならば翔太を任せても安心出来る。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学