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会長様は俺様閣下 28

28   翔太(SHOUTA)


 結局、翔太は和臣に連れられて一条の車で帰ってきた。
 車の中は無言。
 柏木に言われた言葉が翔太の頭の中をくるくると巡っていた。
 和臣が翔太を心配してるのは分かる、気がする。
 でもそれがどうしてか、までは分からない。
 こうしていつも一緒にいるけど。
 小さい頃から翔太が救いを求めるのは和臣だけだ。
 恐怖を抑えてくれるのも和臣だけで。
 だから好きなのか…?
 もう全然自分の思考が、気持ちが、分からなくなってくる。
 でも絶対和臣がいなくなるのは嫌だ、と思えればやっぱり好きなんだ。
 好きというより…必要。和臣と離れるという事が考えられない。
 いずれ、はあるのだろうけれどとてもじゃないが想像できない。

 広い車のシートで隣に座ってる和臣と距離は離れている。
 本当は和臣に触っていたいと思うし、触れて欲しいとも思ってる。
 あ!でも風呂場でのアレはちょっと…だけど…。
 だって恥かしすぎるから。
 
 だって、って言い訳ばかりだ、と柏木に言われた。
 そうかも…。
 だって、怖いから。
 和臣に嫌われたら…。
 …………生きていけないかも、とまで思ってしまう。
 好きと伝えろと柏木は言うけれど、でもそうしてどうなるんだ?
 きっと和臣はそんな俗的な思いなんてないはず。
 ずっと帝王学を学んで、それを身に纏い、実現出きる人だ。
 翔太なんかとは次元が違う。
 住んでいる世界が違う。
 それでもあの離れでの毎日は嘘じゃない。

 翔太はちらと表情の変わらない和臣に視線を向けた。
 ゆったりと背もたれに背を預けている姿はどう見たって普通の高校生には見えない。
 気高くて誰も邪魔できないような雰囲気を、人が自然と従いたくなるような空気を纏っている。
 じっと翔太が見ていると和臣がゆっくりと翔太に視線を向けた。
 切れ長の目が翔太を捕らえていた。
 そうこの目にずっともう捕らわれているんだ。
 和臣を凝視していたのを知られてちょっと翔太は恥ずかしくなった。
 和臣を見ているのは飽きないから。
 ふいと顔が熱くなりながら視線を外すと和臣が手を伸ばしてきて翔太の手と手を繋いだ。
 なんで?
 思わずちらと和臣を見たけれど和臣は前を見たまま表情は何も変わってない。
 どきどきしてるのは翔太だけだ。
 でも和臣の手にぐっと力が入ってその手を翔太も握り返した。
 嬉しい、と思う。
 嬉しいとかちゃんと言え、と柏木に言われた事を思い出す。
 そういえば本当に翔太は何も和臣に言った事はなかったと思う。
 パニックから助けてくれた後でもなんでも、ありがとう、も言った事ないかも。

 …どんだけだろう?
 元々パニックになるようになったのは和臣のせいだけど、和臣はいつも翔太がそうなった時は自分のしなきゃいけない事を途中で投げ出してもいつも助けてくれる。そしてずっとついていてくれる。
 いや、だからそれは元々和臣のせいだし!
 翔太は頭を小さく振った。
 でも本当はそれも嬉しい。
 だって和臣の中でなにより自分が優先されているから。
 自分はすごく欲張りだ。
 だって和臣をずっと独占しているのと一緒だ。
 きっと今だけなんだろうけれど…。
 今だけ…。
 あと何年こうして一緒にいられるのかな…?
 どうしたって後ろ向きな考えになってしまうのは仕方ない。
 柏木は翔太の考える事じゃないっていったけど。
 だって、心の準備しなきゃないだろ?
 なんて、本当は考えたくもない。
 自分の中心は全部和臣だ。
 
 ぐるぐると色々考えているうちに車は一条の屋敷と言っていい家についた。
 重厚な門扉は開いて車が静かに敷地内に入っていくと和臣の手が離れた。
 思わずその手を離したくないと力が籠もりそうになったけどしなかった。
 そんな事出来ない。
 翔太は顔を俯けた。
 一緒の車に乗っているけれど、隣に座っている和臣との距離は近いはずなのにすごく遠い。
 それはいつも思っていることだ。
 一緒にいるけれど、軽口言うけれど、和臣、なんて呼び捨てにしてるけど、実際の距離は遠いんだ。
 手なんてとてもじゃないけど届かない距離だ。
 分かってる、けど…。
 なんだか翔太は泣きたくなってきてしまった。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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