30 翔太(SHOUTA)
何か言われるのかと思ったけど和臣は何も言わなかった。
「親父が帰ってきたら翔太もお父さんのところに行っておいで。年度末から忙しくてあんまり会ってなかっただろう?」
「うん…でもお父さんあんま喋んないし、別に俺もそんな話す事ないから」
「まぁ、お前と違って口数は少ないな」
「うん。だからちょっと困る時もある」
翔太がへへと笑うと和臣が優しい目をした。
それにどくんと心臓がなって翔太は顔を俯けた。
何、今の顔?
どきどきと心臓が走っている。
さっき小さく言った着物がカッコイイから好きだといった言葉は和臣には聞かれなかったらしい。聞いてたら絶対何か突いてきそうだけど全然言ってこないし。でも着物、というのは聞こえてたからか久しぶりの着物姿にどきどきする。
きっとだからだ。
「翔太、こっちに戻ってくる時にメールよこしなさい。途中まで迎えに行ってやるから」
「え?ほんと?」
「ああ。怖いだろ?」
お父さんがいる部屋は母屋からちょっと離れているから夜になるといつも怖かった。
「…うん」
それでもいつもどうにか頑張って我慢してたけど。
「…ありがと」
翔太が小さく囁くようにいうと和臣がふっと笑った。
うわぁ~…今日はどうしたんだろ?
顔や言葉が優しい。
いつもみたいに意地悪な口調で言われれば翔太も噛み付くけれどこんな風にいわれたら嬉しくなる。
「ええと……その……嬉しい」
柏木がちゃんと嬉しいも言えって言ってたから言ってみる。
すると和臣は驚いた顔をしてさらに目を細めた。
そして手を伸ばしてきたと思ったら翔太の頭をくりくりと撫でた。
ああ、素直に言えって柏木が言ったのが分かる。
嬉しいが増えていく。
「…和臣…」
「うん?」
どうしよう、言っていいのかな?甘えろも柏木が言ってたから…。
ほんとに…?
「手…」
繋いで欲しい…。
そう言いたかったら和臣が何も言わないで手を繋いでくれた。
すごい…。
本当だ。
なんだ、言っていいんだ…。
なんとなく恥ずかしくて目は合わせられないけれどでも嬉しい。
本当は和臣の腕にすがりたい気もするけど。
お父さんと会うのは嬉しいけど、でも和臣と離れがたいと思ってしまう。
学校とかだったら別にそう思わないのにどうしてだろう?
変なの。
「じゃあ後でメールよこしなさい」
「うん」
母屋から住み込みの使用人のほうの棟に渡る所で和臣と別れる。
電気はついているけどどうしても薄暗く感じてしまう。
「ちゃんと迎えに来てやるから」
和臣が翔太の頭を撫でた。
「うん。じゃ後で」
「ああ」
なんで今日はこんなに和臣が優しいんだろう?
それが嬉しくてうきうきした気分で父親の所に向かった。
「学校はどうだ?」
「うん。友達できたよ!すっげぇ気が合うの!それにそいつ和臣にも普通だし」
「ほぅ」
お父さんが驚いた顔をした。
「それはすごいな」
「でしょ?」
部屋は結構広い。翔太が泊まっても全然平気な位なんだけど、やっぱり怖くても和臣の近くの方が安心なのはなんでなのだろう。
「和臣様とは?」
「ん~?何?」
「いや…どうだ?」
「え~?別に何も変わんないよ。ああ、朝一緒に車でって言われるのはやだけど」
「ん~~~…」
困ったような顔を見せる父親に首を捻った。
「……和臣様は一体お前のどこがいいんだ?」
「は?意味わかんない」
「いや、ずっと飽きもせずにいるから。…お前をうるさくないのか?」
「……うるさいとは思うけど。でも煩いって言われた事はないです!」
う~~~ん、とまた唸っているのに口を尖らせた。
「翔太、こっちで寝るのか?」
「ううん。帰る。帰る時和臣にメールすれば迎えに来てくれるって」
「……迎え…?お前坊ちゃんをパシるのか?」
「まさかっ!和臣パシれるわけないだろっ」
「だよな」
なんつう事言うんだこの父は。
「なんだかなぁ…篤臣くんも社長もなんでお前好かれてんだ?」
「知らな~い」
「一番謎は和臣様に飽きられない所だが…」
「それは俺も不思議。和臣なんて血も涙もないようなのにね!」
「……ソレ分かってて一緒にいるんだから…だからか?」
「知らない~」
だって自分にはいくらか和臣は優しくしてくれるから。
しかし一条に仕える身なのにこの父も容赦なく和臣を言うな~とちょっとムッとしてしまう。
「和臣だって優しい時も…たまにはあるのに」
優しい…父はそれがどんなだろうと思い当たらないようで怪訝そうにしていた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学