33 翔太(SHOUTA)
和臣が柏木にちょっと、と言って窓際で話をしているのに手持ち無沙汰になってしまう。
「座っていいよ」
副会長が生徒会の会議用のテーブルと椅子が並んでいる所を指差し、自分も座ったのでそろそろと翔太も座った。
副会長を間近でちゃんと見たの始めてかも、とじっと副会長を見た。柏木が好きな人。やっぱり美人さんだ。そして和臣の隣に立っても似合う人だ。
落ち着きなくてちんくしゃな自分とは違いすぎる。
でも副会長とはまだ付き合ってないって柏木が言ってた。副会長が誰を好きなのか分からない。
雰囲気は柏木の事好きに見えるけど幼馴染だって言ってたし、どうなんだろう?
「フクカイチョは柏木の事、好き、なん…です、か?」
「は?」
小さく翔太は副会長に質問したら副会長は大きく目を見開いて固まった。
違う、の…?思わず不安になった。
「それとも…和臣…?」
「いや、それは絶対ない」
柏木のところには返事しなかったけど、和臣の所には即答で否の返事にほっとしてしまう。
「…そう、なんです、か?」
よかった、と思って顔が緩んだ。だって副会長に翔太が敵うはずないから。
「よかった。フクカチョ…が和臣好きだったら勝てねぇから…」
「は?」
小さく翔太が言うと副会長がじっと見ていた。
「…和臣が好きなの?」
和臣を見ればまだ柏木と話をしていてこっちなんか気にしていないようなのでこくんと小さく翔太が頷いた。
和臣には言えないけれど、ずっと和臣だけいればいい。本当は。
「…和臣好きなら…敦に抱きついてるの、よくない、と思うけど?」
え?
副会長の言葉に翔太はきょとんとした。敦って柏木だよな。抱きつくのよくない?そういえば前に和臣が写メ見せてきて言い合いになった事あったっけ。
「あ、…そう、だよね…」
翔太はそっか、と頷いた。
「反対に和臣に抱きついてやればいいのに?そしたら和臣きっと絶句して黙るんじゃない?」
「え?そう!?」
「多分。だって和臣いつもイライラしてるよ?いつもあんまり表情出さないけどかなり面白くないってのは見えるし」
え?そう…?
「…そう、かな…?和臣、いつも顔変わんないから」
「きっと君から抱きついたら変わるんじゃない?」
「そっかな…?」
抱きつくのはパニックの時だけ。柏木にも本人に抱きつけば?って言われたけど。柏木にならなんも考えなくたって全然平気なんだけどな。
だってどきどきもしねぇし。
和臣だと恐くてパニック以外の時にそんな事するのに勇気がいるんだけど。
「和臣もきっと本当はそうして欲しいんじゃないかな?和臣が誰かに執着してるとこなんて始めて見たし」
「え?そ、そう…?」
そうなのかな?確かに和臣は家族と翔太以外どうでもいいような所はあるかも…。でも翔太が知らないだけかもしれないけれど…。
柏木にも言われて副会長にまで言われればそうなのかな?って思えてくる。
それにイライラ?面白くない?
さっき和臣が怒ったのも翔太が柏木に抱きついたから?
この間の写メももしかして翔太が和臣以外に抱きついたから和臣は面白くなかった?
そうなのかな…?
そうだといいのに…。
だって和臣はいつも翔太をモノのように言うし、だからそんな風に思うだなんて思った事もなかった。
嫌だから怒ったの?
和臣をちらっと見るとまだ柏木と話している。
かっこいいよなぁ、と思わず見惚れる。
着物姿はもっとかっこいいんだけど。
今日も着物着てくれるかな?
…だといいんだけど。
学校で和臣といるのになんとなく素直になれなくて。
だって学校の和臣は生徒会長で皆が憧憬してるような感じで翔太の知っている和臣じゃないみたいだった。
一条に帰れば翔太の知っている和臣だ。
翔太だけの。
きっと皆和臣の着物姿なんて知らないんだ。
知ってるの俺だけだ、と思えば優越感が増す。
翔太が他の人に抱きつくの嫌なのかな?
そう和臣が思ってくれているならいいのに。
別に和臣以外には抱きつくなんて意味のない事なんだけど、と思いながら自分の都合のいいように考えてしまいそうになる。
昨日柏木に言われて嬉しいがいっぱいだったから、今日は思い切ってそうしてみようか?
でも追い払われたらどうしたらいいんだろう…?
…恐くなりそうだからって言い訳すれば大丈夫だろうけど。でもそれじゃ意味ないような気がする…。
色々考えて、そして、どうしたって臆病になってしまう。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学