34 翔太(SHOUTA)
帰りも生徒会室に柏木に連れて行かれて、そのまま和臣に連れられて帰る。
和臣に連れられて学校内を歩いているとじろじろと他の生徒に見られた。
…もう諦めるしかない。
きっとあいつは会長のなんなんだ、と言われているはずだ。
それは学校に限らずなので今更だけど。
どこか外に出ても和臣の顔は知れているので挨拶に来る大人もいる。
そしてその傍に立つちんくしゃな自分に視線を向けられるのだ。
どこの女の子にだっけなぁ?ちんくしゃって言われたの…。
和臣のお母さんがどこかのホテルのディナーが食べたいと言い始めて無理やり連れて行かれたんだ。おまけに翔太まで。
和臣と篤臣くんと二人のお母さんと翔太で。
マナーとかは教えられてたから分かるけど、落ち着かなかったのは確かだ。
そこに挨拶に現れたどこかの親子。
その娘だった。
和臣達の前では媚を見せ、その隙を狙って一緒にいた翔太をちんくしゃのくせにって言われたんだった。
そんなの自分で分かってるっつぅの!
「翔太?どうした?」
大人しいと思ったのか前を歩いていた和臣が翔太の顔を覗きこんできた。
「え?あ、ううん?なんでもねぇよ」
「そうか?」
伸びた背筋、きびきびした動作、無駄な動きなんてなくて、背が高くて、家柄よくて、頭もよくて、かっこいいなんて、和臣にないものなんて何もない。
人を従わせるのに慣れた態度、でもそれが当然と思えるようなカリスマの人。
和臣とすれ違う生徒が皆頭を下げて挨拶していく。
それは3年だってだ。
そのすぐ傍にいる翔太は何だコイツ、という視線。
別にいいけど。
きっと副会長みたいな人だったら納得されるんだろうな、と思ってしまう。
大人しく一条の車に乗せられて。
なんで和臣は自分を連れて歩くのかな?
和臣は翔太みたいなの連れて恥かしくないのかな、と思わず心配してしまう。
一条の家の中だけだったら別にいいけど、和臣は外にまで一緒に連れ出そうとするのだ。
「翔太、明日の昼は俺は須崎に行かなくてはいけないから」
「あ、うん。分かった。篤臣くんと遊んでる」
篤臣くんはまだ小学3年生だけどやはり一条の家の子だからかずっと大人な感じがする。
精神年齢は翔太より上じゃないかと思ってしまう。
「和臣?」
返事をしない和臣がじっと翔太を見ていた。
「…須崎には連れて行かれないな…」
そしてそう言ってはぁ、と和臣が溜息を吐き出している。
いつもついて来い、というのを翔太が嫌だと突っぱねるのが常だけど、連れて行かれないと言われれば微妙に凹んでしまう。
翔太がそれに価しないと言われているようだ。
そんなの分かってるけど。
思わず顔を車の窓から外に向ける。
和臣に否定されるのは嫌だ。
いらないって言われたらどうしようと不安になるから。
「夜まではかからないはずだから」
「あ、…うん」
そういえばこの間も須崎の家に行ったのにまた?
翔太には分からない上流の家の付き合いがあるのだろう。
それでも和臣はいつも夜までには戻ってきてくれる。
翔太の為に。
それがどれだけ和臣に負担をかけているんだろう…?
和臣は何も言わないけれど…。
治る、のかな?
このままずっとはやっぱりいけないと思うんだけど。
それを言ったら和臣がいきなり怒ったのはどうして?
だってどうしたって迷惑だと思うだろうに…。
そのままでいい、とさえ和臣は言ったんだ。
そんなはずないのに。
一条の家に着いて着替え。
「翔太、いいから。俺は自分でするからお前はお前で着替えてきなさい」
最近和臣はよくそう言ってさっさと着替えて自分で片付けてしまう。
じゃあなんで翔太はここにいるんだ?
何も出来ないし恐くてパニックになるだけなのに。
自分の部屋で着替えをしているうちにますますしゅんとしてくる。
あ…着物だ。
和臣のいつもいる座卓の部屋に入るとすでに和臣は着替え終わっていた。
昨日も着物で、今日もだ。
へへ、と嬉しくなる。やっぱりかっこいい。
「翔太、教科書持って来なさい」
「え~……はい…」
じろりと睨まれてしぶしぶ頷いた。
でも勉強なら和臣と隣で並んで座れる。
抱きついたら和臣は驚くんだろうか?
副会長はそう言ったけど…?
テーマ : 自作BL小説
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