35 翔太(SHOUTA)
でも結局そんな事出来るはずもなく、怖いも特になく、夜も普通に時間は過ぎて翌日になった。
「じゃあ行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
玄関で篤臣くんと須崎に出かける和臣を見送る。
和臣のお母さんもなんかどこかで婦人会があるとかで出かけており、和臣のお父さんもいない。
一条の人達は忙しいな、と思いながら翔太は和臣の弟の篤臣と手を繋いでいた。
それを和臣がじっと胡乱に見ている。
「篤、分かっているな?」
「分かってます。兄様しつこい」
「?」
「ならいい」
和臣が頷いているのに何?と首を傾げたけれど和臣は答えない。
和臣は今日はスーツを着ている。
いつもは制服か着物か普通にTシャツとかだからスーツ姿が新鮮だ。
背も高いしやっぱかっこいいヤツは何着たってかっこいいんだ。
「翔太、帰る時にメール入れるから」
「うん、分かった」
いってらっしゃい、と篤臣くんと手を繋いでない方の手を振って和臣を見送った。
「翔ちゃん僕の部屋でいいでしょ?」
「うん。勿論。ゲームしよ!ゲーム!」
「この間の続きね!」
離れにはゲームとかないので篤臣くんと遊ぶとゲームとかできるし密かに楽しい。
ちょっとばかり小学生と遊んで楽しいっていう自分には頭痛くなりそうだけど和臣とそっくりの篤臣くんなら仕方ない。
それでもまだ和臣に比べれば篤臣くんの方が人懐こいし普通だけど。
何時間もゲームで遊んでさすがに疲れた。
「休憩~~~!何か飲み物持ってこようか?」
「うん!僕はオレンジジュースっ」
「了解~」
キッチンには常に一条の台所を任されているおばちゃんがいる。もう若い時からずっとここで働いているらしい。
「ジュースください」
おばちゃんは翔太にもいつもにこにこ顔だ。
「お菓子も食べる?」
「食べます!」
ラッキー!と翔太は篤臣くんの分も貰って篤臣くんの部屋に戻った。
「ねぇ、和臣、行く時に分かってるな、って言ったの何が?」
「え?」
二人でジュース飲んでおやつ食べて。
まるで翔太も本当に小学生みたいだ。
精神年齢はそうかもしれないけど。
「翔ちゃんを取るな、って事でしょ」
「はい?」
「翔ちゃんは兄様のもの、って確認」
「…………なんだよソレ」
「本当だよね。そんで自分はお見合いだし」
「………え?」
「あ……」
篤臣くんがしまった、という顔をした。
お見合いって何……?
お見合いってあのお見合い?結婚を前提にみたいな…?
一条の家ならそういうのもありなんだろうけど…。
心臓がどくどくと嫌な音をたてている。
翔太はごくりと唾を飲み込んだ。
「…まぁ、一条の後継者だから、和臣。そうだろうね…」
はは、と翔太は渇いた笑いを浮べた。
「翔ちゃん、ごめん~。これ内緒だったんだ。翔ちゃんが気にするような事は何もないんだよ?」
「うん。いいよ…。だって俺に関係ないしね…」
「う~~~……これは兄様に怒られるな…」
やばい~、と篤臣くんが頭を抱えていたけれど翔太はもうそれどころじゃなかった。
お見合い…。
そんなの知らなかった。和臣は何も教えてくれなかった。
別にお見合い位、今すぐ結婚とかでもないのに言ってくれたっていいはずなのに。
内緒って…。
翔太の頭の中がぐるぐると回転する。
「翔ちゃん?大丈夫?」
「え?何が?全然平気だけど?」
篤臣くんの心配そうな顔。
どうしよう?のどがからからだ。和臣がお見合い?
怖い。
まだ日は高いのに恐怖に包まれそうになる。
翔太はもう和臣の近くにいられなくなる?
いらなくなる?
いられなくなる?
そう思っただけで恐怖に支配されそうになる。
まだ明るいから大丈夫。
だって和臣は夜までかからないって言ってたし。
でもそのうち誰かと和臣は夜を過ごすんだ。
そうしたら自分はどうしたらいい?
やっぱり治さなきゃだめじゃないか。
ぐるぐると頭の中が混乱している。
「…篤臣くん、俺あっち戻るね?」
「いいけど、大丈夫…?」
「大丈夫。大丈夫。ほら宿題とかあったし。篤臣くんは?」
「あるけど…。そんなのすぐ終わるよ…。それより翔ちゃん…」
「じゃ、篤臣くんも宿題して?秀邦だから勉強難しいんだから」
「僕は平気だけど」
「う~…篤臣くんはそうだろうね!俺は難しい…」
普通に会話できてるよな?笑えてるよな?
そのまま篤臣くんの部屋から離れに戻ってくる。
怖い。怖い。
どうしよう…。
和臣は本当に夜まで戻ってくる…?来なかったら…?
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学