36 翔太(SHOUTA)
離れの自分の部屋のベッドに翔太は潜り込むと布団も被った。
怖い。
和臣…。
身体が震える。
息がしづらい。
助けて…。
助けてくれるのは和臣だけだった。
でも和臣がいない。
目を閉じた脳裏に出て行った時の和臣のスーツ姿。そしてその隣には知らない女が立っているんだ。
須崎って言った。
須崎の、大臣までした須崎の孫娘か誰かなんだ、きっと。
和臣の隣に…。
和臣の手がその女性のものになる…?
仕方ない事。
分かってた事じゃないか。
浅く短い息遣いになってしまう。
自分でこれを抑えないと。
いつまでも和臣に縋ってるなんて。
涙がぼろぼろと零れてくる。
いつもの怖い、なのか違うのか自分ですら分からない。
泣くのと恐怖の発作でますます息が苦しくなってくる。
声が漏れそうになって自分の口を両手で押さえた。
身体を丸めて。
どうしたらいいの?
これをいつまで我慢すれば治まる?
苦しい…。
これを助けてくれる人はお見合いだって…。
もしかしたら和臣の奥さんになるかもしれない人といるんだ。
身体ががくがくと震えている。
怖い。
なんで?陽はまだあるのに。
夕方だけどまだ夜じゃないのに。
和臣を呼んじゃいけないんだ。もう…。
どれ位の時間をそうしていたのだろう…?
翔太が苦しくて意識が朦朧としてきた頃ばたばたと足音が聞こえた。
「翔太っ」
和臣の声…?
なんで?携帯なってないよ?帰る時メールするからって言ったのに。
「翔太」
布団を剥がれた。
あ、本物?
慌てた様子で和臣の髪がちょっと乱れてる。
「か、ずおみ…?」
浅い息にひくりと息が詰まる。
「ああ。ほら」
ベッドの端に座った和臣が腕を広げたのに抱きついた。
「ゆっくり息しなさい」
和臣の声が耳に聞こえる。手が背中をゆっくり撫でてくれる。それに安心してきて浅かった息遣いが段々と治まってくる。
だから!どうして和臣がこうしてくれるだけで治まってしまうんだ?
「翔太…大丈夫だから」
大丈夫じゃない。
ぼろぼろと涙が零れた。
大丈夫なはずないじゃないか。だって和臣がいないとこれは治まらないんだから。
でも、なんで、分かったの…?
「か、…ず………ど、し…て……?」
ひくひくっと息が上がりながらも口を開いた。
「喋るの後だ。まず息ちゃんと整えろ」
とんとんと背中を和臣が優しく叩いてくれる。
和臣の首に掴まって体温を声を存在を確かめられて段々と息苦しさが治まってきた。
お見合いは?どうなったの?
気になる。聞きたい。
でも和臣を断る人なんて誰もいないだろう。
聞かない方がいいに決まっている。
ぎゅっとますます力をいれて和臣に抱きついた。
「翔太。大丈夫だから」
何度も和臣が名前を呼んでくれる。
「く、る…し……」
「ああ…もう大丈夫だから…。水飲むか?」
「や…っ……」
いらない!離れるんだったら飲まなくていい。ぎゅっと和臣に抱きつくのに力を入れた。
「ああ、はいはい。離れないから。ホントお前は俺がいないとダメだな」
だめに決まってる…けど、なんか…和臣の声が嬉しそうだ。
そろそろと顔を上げて和臣を見た。
「おま…顔ぐしゃぐしゃ…ほんと翔太は仕方ないな……」
やっぱり、嬉しそう、だ。
なんで?
和臣がティッシュに片手を伸ばして引き抜くと翔太の涙でだらだらになってた顔を拭いてくれる。
「せっかくの可愛い顔が台無しになってるぞ?」
「か、わ…いい…???」
誰がぁ?
やっと落ち着いてきて息が普通になってくる。
何から聞いていいのかもう分からなくて、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
…顔もぐちゃぐちゃだけど。
やっと止まった涙だったけど、これじゃ本当に子供と一緒じゃないか。
自己嫌悪に陥ってくる。
恐くて震えて、泣いて抱きついて…。
どうしようと思ったら和臣のスーツの肩の辺りが翔太の所為で濡れていた。
「和臣…スーツ!」
「ん?ああ。別に構わない」
和臣は何でもない事の様に言うけれど絶対高いスーツなはず!
「落ち着いたか…?」
「あ……う、ん…」
和臣の顔を目の前に見てほっとする。
よしよしと和臣が頭を撫でてくれるのに目を閉じた。すると和臣が翔太の頭を胸に抱いてくれる。
ああ、安心する。
和臣の心臓の鼓動がどうしようもない位に幸せに感じた。
あ~あ……どうしよう…。
やっぱり和臣じゃないとダメだ…。
テーマ : BL小説
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