37 翔太(SHOUTA)
翌日、しみじみと和臣に言われた。
「お前は本当に子供と一緒だな」
「………」
その通りなので何も言い返せない。
「しかも性質が悪い!本当に息が止まったらどうするんだ?」
だから治したいって言ったのに。
「………病院、行った方……いい、の…かな…?」
しゅんとして小さくなるけれど、和臣と手は繋いだままだ。
昨日夜でもないのに怖い、になってからずっと和臣から離れられない。
「病院はいいだろう。原因も分かってる」
それは和臣のせいなはず。
ちろっと和臣を見れば和臣がふんと笑った。
「だから責任持ってお前を見てやっているだろう」
…そうだけど。
「翔太ちょっと書き物があるから」
「え?ああ…はい…。あの、和臣…背中にくっついてていい?」
「どうぞ」
翔太は和臣の背中に自分の背中を合わせて足を伸ばして携帯を触った。
どうやら昨日は篤臣くんが和臣にメールで知らせたらしい。
どんな内容かまでは知らないけれど。
でも見合いの話は一言も和臣から言葉はない。
それを篤臣くんから聞いたというのもきっと知ってるはずなのに和臣は言わない。
翔太に教える気などないって事だ。
もしかしてお付き合いするのか?
そうしたら翔太はどうすればいい…?
何も和臣は教えてくれないのだ。
柏木にメールする。
<なんで和臣ってこんなに意地悪なんだろ?>
<知るか!>
すぐに返事が返ってきたけど、…冷たい。
お見合いの事も愚痴りたいけどそれは一条に関わる事だからまさか言えない。
<冷た~い>
<俺は今ゆきと一緒にいるんだから邪魔するな>
ふぅん…。自分は副会長とラブラブ中ってか!
くっそ…。
<俺だって和臣と一緒だよ~だ!ただ忙しくて相手してもらえてないけど>
<だからって俺にメールよこすな!邪魔!>
ちぇ、翔太は携帯を離した。
和臣が書類を書いたり見たりしている時はそれを見ないし邪魔しない。
つまんない。
ぐいっと和臣の背中に寄りかかった。
「少しだから我慢しろ」
「………うん」
翔太の言いたい事が分かったらしい和臣の声に恥かしくなって大人しくした。だって、ねぇ…。
これだから子供と一緒って言われても仕方ねぇんだな、と自分でも呆れた。
「ゴールデンウィークはどこかに遊びに行くか?」
「え?いいの?行きたい!」
「どこがいい?」
「どこ……って言われても…困るけど」
「適当でいいか?」
「うん」
やった!どこかなぁ…?
前に一条の別荘に連れて行ってもらった事もあったけどそれもいいし。
ううん、どこだっていいや。
でも、和臣、デートとか、しないの、かな…?
お見合いしてお付き合いって事になってたら、そうなる、はず。
でも聞けないし、言ってもらえないから…。
そういえば可愛い顔とか言ってたのを思い出した。
そうなの?
ちんくしゃ、って言われたんだけど。
「なぁ、和臣~」
「ああ?」
「俺、ちんくしゃ?」
「は?」
和臣が書類から顔を上げた気配を感じた。
「何?」
「俺、ちんくしゃ?」
「………何を言ってる?意味が分からない」
和臣がペンを置いて体を翔太の方に向けた。
手を出されてその手に掴まる。
「ん~と、いつだったかどこかでどっかの女にちんくしゃのくせにって言われたんだけど…。だから俺ってちんくしゃなのかなって…」
「……どこの女だそれは?」
「え?忘れた」
「……俺もいた時か?」
「うん。ええと篤臣くんと理香さんとどっかのホテルに食事行った時」
「ああ…」
和臣はそれだけで分かったらしい。
「なんだ。そんなことか。あの女がお前に嫉妬したんだろ。女の自分よりお前の方が可愛いから。…顔の造作だけじゃなく中身も最悪だな。中身だってお前の方がずっと可愛い」
なんだ、と和臣が手を離してまたペンを持った。
え?
そうなの…?
顔が熱い。
和臣はそう思ってるってこと?
どうしよう…?
抱きついていいかな?
そっと和臣の背中に顔をつけて和臣のお腹に手を回した。
「どうした?」
「ううん…。ダメ?邪魔?」
「いいや」
和臣の声が満足そうだ。
そして翔太の手をとんとんと叩いてくれる。
うっかり大好きって言いたくなってしまって翔太は慌てて言葉を飲み込んだ。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学