38 翔太(SHOUTA)
二日いけばゴールデンウィーク。
とりあえずサッカー部のあの阿部というヤツにも会ってないし、と思ってたら会ってしまった。
和臣と一緒の時だったからよかったけど。
朝、和臣の生徒会の服装チェックが終わって皆と変わらない登校時間になったらいきなり見かけた。
「翔太」
和臣に呼ばれて和臣にぴたりとくっ付いた。
視線が嫌だ。
和臣の手が大丈夫だと言わんばかりに翔太の背中に触れてくれるのにほっと安心した。
輪姦してやる、と言われた言葉を思い出す。
……そういえば和臣に後ろを触られた事をすっかり忘れてた。
昨日も一昨日もお風呂一緒に入ったけど別に何もなかったし、テンバってた時のそんな事すっかり忘れてた。
そういやキスだって何回かされてんだった。
自分どんだけ鳥頭だ?と思わず反省する。
そうはいっても別に翔太はそれが嫌でもなくて嬉しいと恥ずかしいだけなんだから仕方ない。
しかし阿部の視線の粘りつきに嫌悪感が湧いて和臣の制服の裾を掴んでしまう。
「大丈夫だから」
和臣がいれば安心出来るけど、いなければ不安になる。
「うん…」
和臣の教室に行けばすでに柏木と副会長の姿。
ここで和臣から離れなきゃならない。
昼に生徒会室に、と和臣が柏木と確認して自分の教室に行った。
なんか和臣と離れるのが不安で仕方ない。
柏木にはつい和臣に対して憎まれ口を言ってしまうけど、なんかもっとダメになってきている気がする。
問題が起こったのは次の日だった。
昨日と同じように和臣と和臣のクラスへ。
「柏木?どうかしたか?」
柏木が副会長を抱き寄せてたのに和臣が声をかけた。
「如の机。交換して」
何?と思って副会長の席を見て翔太は真っ青になった。思わず口元を押さえる。
「………悪いが二宮の机、運び出してもらえるか?」
和臣がクラスメイトに何事もないように話しかけた。
如の机の周りに散らばったティッシュの残骸。机の中にも。上にも。
すでに干からびていたけど…。
これ…。
柏木が副会長を宥めている。その間に和臣のクラスメイトが新しい机も運んでくれて、見た目上は何もなかった事になった。
自分の机にかけられたモノ。
「大丈夫だ」
気丈に副会長が言った。翔太だったらとてもじゃないけどこんな態度は出来ない。
自分に向けられたものでなくてもこんなに動揺しているのに。
「如」
「……どうという事はない」
柏木が声をかけても副会長はもう普通に見える。そして動いてくれた二人に礼さえ述べている。
すごい人だ…。
それに比べて自分はなんて子供で小さいんだろう…。
「柏木」
和臣と柏木が何か話しているけれど翔太には聞こえていなかった。
自分もこうなりたい。
副会長みたいに、和臣の隣に立っても似合うようになりたい。
「ゆき」
「…大丈夫だって言ってる。ほら、三浦くんと教室行け」
「二宮はちゃんと見てるから」
「如、無理するなよ?何かあればメールして?」
「…大丈夫だって言ってる」
柏木が心配そうにしているとその時だけ副会長の表情が崩れる。
ああ、やっぱり副会長は柏木が特別なんだ。
二人で耳を寄せ合って話している姿は翔太にとって羨ましい事だった。
だって柏木と副会長は信頼しあって対等に見える。
お互いがお互いを見ている。考えている。
柏木が和臣に頭を軽く下げると和臣が頷いた。
「三浦、行くぞ」
「あ、ああ…」
柏木に声をかけられて返事したけれど、翔太はまだ動揺している。
性的に見られている、ってああいう事か…。
「な、なぁ…フクカイチョ大丈夫…?いい、のか?」
「……仕方ねぇだろうが。お前も気をつけろよ?」
「……………う、ん……」
ぞくりと悪寒がする。
「サッカー部も問題児多いんだろ?一人になるなよ?」
「………」
こくりと翔太は頷くしかない。
「そのまんまカイチョーに寄りかかってりゃ安心すんのに」
「………でも」
分かってるけど…。
和臣はいつでも先回りして翔太の不安を取り除こうとしてくれる。
それをいう事きかないのは自分だ。
輪姦すなんて言われて甘く考えていたけど、現実を見させられて和臣が朝一緒に、お昼も帰りも一緒にの意味が分かった。
そして昨日の朝の阿部の視線を思い出せば身体が震えそうになってくる。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学