42 和臣(KAZUOMI)
風呂行くぞ、と声をかけたら翔太の動きがぎこちない。
意識しているのがもろばれだ。
くっと和臣は笑いが出そうになる。
翔太は自分を取り繕う所がない。媚びもしないし平気で和臣に否を唱える。
誰もが和臣の顔色を伺うのに翔太はそれがないのだ。
翔太だって伺う事はある。けれどそれはあくまで和臣がどう思ってるかを気にしている場合だけだ。
翔太だけは変わらない。
それがどれだけ和臣の中で大きな事か全然翔太は分かっていないだろうけれど。
翔太は顔を真っ赤にさせぱたぱたと自分の部屋まで走って行ってすぐに着替えを手に走って戻ってくると和臣の腕にしがみつく。
自分がついていないとダメだ、と思えば独占欲しか浮かばない。
学校に行けば翔太は離れる。このままずっとココに閉じ込めておけば翔太は和臣以外に必要ないのに。そうできれば…。
そんな間違った考えはだめだと頭では分かっている事だが。
柏木に懐いてくっつくのが面白くない。
幸いにも柏木には想い人が別にいるからそれがまだ我慢出来るが…。
脱衣所で服を脱ぐのにも翔太はもじもじしてる。いつもと同じようにと心かけているようにしているが顔が仄かに赤いしどう見たっていつもと違うのに。
くすと笑いが出そうになるけれどそれは押し留める。
今日あった事はよほど翔太にとって衝撃的だったのだろう。自分がそういう対象に入っていると初めて自覚したのかもしれない。
だから離れるな、と言ってるのに。
これで少しは翔太は学校でも縋ってくるだろうか?
これは和臣のものだ。ずっと。
「頭洗ってやる」
「え?あ、うん…」
頭を洗うのが翔太は風呂場で一番怖いのは分かっている。
目を閉じてると後ろに…と散々脅かしたのは和臣だ。
大人しく身を任せてくる翔太は可愛い。
翔太以外人に感心がないのは家のものは誰でも知っているだろうけれどまさか自分がこんな甲斐甲斐しく世話してるなんて誰も思っちゃいないだろう。
自分に向けられる評価は分かっている。
自分でも自身を十分分かっている。
そして自分以外の人の評価はは使えるか使えないか、それに限る。
例外は翔太だけだ。
翔太ははっきり言えば使えないけど。それでも翔太だけはこうして傍にいるのが当然の事だ。
狂おしいほどに欲しいと突き動かされる時があって、翔太に自分が好意を寄せてると知ったのはこの間だけれど。
それを考えれば初めて会った時から好意はあったのだろう。だから自分だけ見るように和臣だけがいればいいように無意識にずっと脅かしてきたんだ。
功を奏して翔太はまさしくその通りの状態になっている。
そして自分と1つしか違わないはずなのに、ずっとまだ子供だと思っていたけれど、それが我慢出来ないほどに自分が暴走してしまいそうになるのに自分でも驚愕する。
その全部は翔太に関してだけだ。
キスも意識もしないで思わず引き寄せられてしている。
まったく驚きだ。
そんな衝動が自分にあるなんて。翔太がいて初めて自分も人である事を思い出せる気がする。それがなければ一条の人形と言っていいかもしれない。
和臣にだって感情はある。二宮や柏木などはかなり気に入っている。それでもきっと自分に刃を向けるようなことがあれば冷徹に切り捨てることが出来るだろう。
でも翔太は…。
もし自分から離れようとしたら?
いつやら離れる気でいるらしいことを翔太が漏らした時もどうしようもない焦燥感に包まれた。
普通だったらそれで切り捨てて終わりだ。
だが翔太にはそれは許されない。どうあってもだ。
シャワーで頭から泡を全部落としてやると翔太が頭をぶるぶると振って水気を飛ばすのにまるでやっぱり濡れるのを嫌う猫みたいだと思わず笑ってしまう。
湯船に入って翔太を背中から抱きしめれば翔太がほっと安心したように息を吐き出したのに和臣の顔が緩んだ。
翔太の身長はなかなか伸びなくて、和臣よりもだいぶ低い。
学校の身体測定では164センチだった。
気にしているらしいけど…。
和臣とは20センチ近く違う事になってしまう。
「…なんで同じもの食ってんのにこんなに違うんだ?」
翔太も同じ事を考えていたのか?くいっと後ろを振り向きながら口を尖らせて言うのに和臣は笑ってしまった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学