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熱視線 狂詩曲~ラプソディ~4

 学校を終えて帰るのに、明羅は駅でどうしようと迷った。
 家に帰るのと怜の家は反対方向。
 でも一本の電車で繋がっている。

 行きたい。
 会いたい。
 ピアノが聴きたい。
 ううん、ピアノがなくたっていい。
 ただ顔が見られるだけでもいい。
 
 でもきっと夏休み中我が物顔で居候していた明羅がやっといなくなって怜だってほっとしているのかもしれない。
 明羅は諦めて家の方に向かう下り線の電車に乗った。
 帰ったらピアノでも弾こう。
 通っていたレッスンは高校に入った時に辞めていた。だって教えられる弾き方をしていても明羅の理想の音にはならなかったから。
 ずっと追い求めていた音。
 電車に揺られながらまた携帯を見る。
 でもやはり全滅。
 怜はいつでもいいと言ってくれたけど。
 今度はリストのハンガリー狂詩曲の2番が聴きたいとリクエストはしたけれど。
 怜からは連絡は何もない。
 今頃怜さんはピアノを弾いているだろうか?
 電車を降りて上り線に飛び移りたい焦燥にかられる。
 でも出来ない。
 明羅は諦めて家に帰った。

 携帯をピアノの譜面台の脇に置いていつ鳴っても気付けるようにしておく。
 そして鍵盤に指を置いた。
 少しぎこちなくなった指。
 でもそれは別にいい。
 明羅はひたすらピアノを弾いた。
 怜の音を思い出して。
 リベルタンゴ。
 でもやっぱり全然違う。
 何を弾いても頭に浮かぶのは怜の音だった。
 ばんっと鍵盤を叩いて顔を突っ伏した。
 「…会いたいよ」
 笑った時に見える八重歯が可愛くて。
 無精髭だって、寝癖だってどうでもよくて。
 
 でも携帯は鳴らない。
 かけようか?
 明羅は携帯を手に取った。
 でもピアノの練習してたら邪魔になってしまう。
 そう思ってしまえばやっぱりかけられなくて明羅は携帯を置いた。

 ずっとその繰り返しで夜になって。
 夜になればなったでやっぱりかけられなくて。
 メールを入れようと思っても何をいれたらいいのか分からなくて。
 明羅はただ携帯を眺めては置くを繰り返した。
 何もする気が起きない。
 パソコンを立ち上げる気力も出ない。
 携帯でメールのチェックだけを済ませた。
 今日は火曜日。
 週末は怜の家に行ってもいいかな…?
 あと三日?
 金曜日学校終わってそのまま行ってもいいかな?
 あ、それをメールで入れたら…?
 ぱっとベッドに横になっていたのを明羅は起き上がった。
 
 ドキドキしながらメールを打った。
 

 金曜日、学校終わったら行ってもいい?

 これだけでおかしくないか?
 夏休みはお世話になったとか?
 いや、でも…と頭の中がぐるぐるする。
 本当は違う。
 会いたい。声聞きたい、なのだから。
 
 「ええいっ」
 送信ボタンをタッチした。
 うわ…送っちゃった。どうしよう…??
 どきどきしながら返信を待った。
 来るかな…?でも怜さんメールしない、とか言ってたような…。

 「……っ!」
 来たのは電話だった。
 「は、はいっ!」
 思わず正座して声が上擦りながら慌てて出ると怜がふっと笑ったような感じがした。
 『金曜日学校終わるの何時だ』
 うわ、怜さんの声だ!と明羅は泣きそうになった。
 たった一日なのに。
 「え、と…三時半位、かな…?」
 『んじゃ学校の近くの駅まで迎えに行くから。学校まで行ってもいいが宗に見つかると煩そうだ』
 怜の苦笑が聞こえる。
 声が近い。
 うわぁ、と低い声に聞きほれていた。
 『…明羅?聞いてるのか?』
 「うあ、はいっ。聞いてる、よ…」 
 何となくどう答えていいか分からなくなってしまう。どう話していたっけ?
 『駅の裏にスタバあるだろ?そこにいるから』
 「う、うん…分かった」
 心臓が飛び出しそうに激しく鳴っている。
 宗の事を言おうか?でも…。
 『ハンガリーの2番だろ?』
 「う、うんっ!でも別に何でもいいんだ…」
 『練習しとくさ』
 嘘だ。きっと練習しなくたって弾けるくせに。
 もっと何でもいいから話して欲しい。
 「ねぇ、ブログは…?」
 『……面倒だからしないって言っただろ』
 嫌そうな声にくすっと笑いが漏れた。
 『お前今笑っただろ?』
 「笑ってないよ?」
 『嘘だな』
 他愛のない会話が嬉しかった。
 怜の声を聞けばこんなに安心出来る。
 どきどきは激しいけれど。
 
 

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