46 翔太(SHOUTA)
翔太は目を覚まして外が明るくなっているのにほっとしてそして和臣から離れた。
うん、大丈夫だ…。
心がざわつかないのを確かめて、そっとそっと布団を畳んだ。
気配に聡い和臣だけれどぐっすり眠っているらしい。
その顔にちょっと見惚れてから携帯を持って足を忍ばせ部屋を出た。
そして母屋に渡って広い玄関で靴を履く。
すでに母屋から物音は聞こえてきてるので家政婦さんは動き出している。
誰にも会わない様に物音に気をつけて一条の家を出る。
翔太の行くところなんてどこもない。
父親は同じ屋敷内だし、それに夜はきっと一人でなんていられない。
でも他所だったらどうなんだろう?
小中学校の修学旅行でしか和臣と離れた事はない。その時は全然平気だったけど。
そういえば和臣は修学旅行に行ってないんだ、と思い当たった。
行かなくていい、と言って行ってない。
……もしかして自分のせい…?
何故今思い当たったのか…?今までは全然気付かなかった。
和臣だからそんな無駄ものに行かなくていい、なんて言葉を言ってたのに納得してたけれど、もしかして違うんじゃないのか…?
翔太はいつも学校に行くのと同じように電車に乗った。
ここ最近はずっと和臣と一緒に一条の車だったけれど。
学校から歩いて30分位で自宅だと柏木が言っていた。
頼るのは柏木しかいなかった。
電車から降りて柏木に電話をかけた。
「柏木!今から行っていい!?もう駅着いて歩いてんだけど!」
電話の向こうで柏木が喚いていた。
「まだいつも会うとこまではついてないけど」
諦めたように後でもう一回電話よこせという柏木の言葉にほっと息を吐き出した。
歩いていくといつも柏木と合う所までついてまた柏木に電話した。
「今いつも会うとこ」
そこから何回か柏木に電話して道順を聞いたとおりに歩いていくと柏木の表札が出ている家に着いた。
間違ってないかな?と思いつつピンポーンとインターホンを鳴らすと玄関が開いておう、と柏木が出てきた。
それに妙に安心して思わず柏木の腹にしがみついた。
「柏木~~~!どうしたらいいの!?」
「はぁ!?テメーの事なんて知らねぇよっ!」
「ひでぇ~!」
つれない柏木の言葉に泣きたくなってくる。
「とにかく入れ」
それでも柏木は優しい。
「だって!和臣が!」
「だからっ!なんで会長との事で俺んとこ来るんだよ!?ああ?巻き込むな!」
「だって!…………あ……」
柏木にしがみついたままリビングにいったら副会長がいた。
「…おはよう」
「おはようございます…二宮副会長」
なんで副会長がいるの???
「とにかく座れ!コーヒーでも入れてくるから。如もいる?」
「いる」
当然のような副会長の態度に翔太は首を捻った。
柏木がコーヒーを入れてくれて向かいに副会長と並んで座った。
「で?なんだってんだ?」
「…和臣が……突っ込もうとするんだ」
思わず言ってしまってから唐突だったかと思ったけどもう遅い。
「あ?何を?」
「何って……ナニ、を…」
「…そんで、ソレ嫌なわけ?」
「……嫌、ってんじゃないけど…。だって、さ……怖いし」
しどろもどろに説明する翔太に副会長がはぁ、と溜息を吐き出した。
「三浦くんは和臣の事がそんなに好きではないんじゃないの?」
「え?」
「だいたいいっつも和臣から逃げようとしてるでしょ。逃げ場所は敦だし。和臣の前だと騒いで逃げて。敦の方好きなんじゃないの?」
「はぁ!?」
「ない!!!」
そんな事絶対ない!柏木も声を上げてた。
「如…?」
「敦…和臣、来るんだろ?」
「え?ああ、すぐ来るって」
「なんで!?和臣が!?やだっ」
和臣が来る!?ああ!副会長がここにいるって事は連絡したかきたかしたのか!!
「三浦くん」
逃げようとして翔太が思わず立ち上がったら副会長に冷たく名前を呼ばれた。
「ここにいなさい」
有無を言わせない副会長の言葉と態度に大人しく翔太は座るしかない。
「ええと……ゆき、ちゃん…?なんか怒ってる、のかな?」
「ああん?………別に。敦、俺の携帯持ってきて。テーブルに置いたままだった」
「ああ、うん」
柏木と副会長の会話に翔太は顔を俯けてただ静かに座っていた。
「もしもし和臣?あと何分位で着く?……ああ、うん。分かった。あ、いるの敦ん家だから。…うん、じゃ」
「如、会長って家知ってるの?」
「あいつの頭の中には住所とか全部入ってるらしいからね。あと15分ほどで着くらしいから。いい?三浦くんははっきり和臣に言って。嫌なら嫌だと言えばいいだろう?好きなら怖くたって出来るはずだ」
嫌じゃない。好きなら恐くたって…て…。恐くもないんだけど。たださっきは言い様がなかっただけ。
好きだから、出来ないんだ…。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学