50 翔太(SHOUTA)
一条の家に帰ると和臣のお母さんと篤臣君が出迎えてくれた。
「翔ちゃん!和臣が嫌になったんじゃないの!?」
「え?全然違う…けど」
ほうっと二人が安心したように溜息を吐き出している。
「お出かけ?」
二人とも余所行きの格好だ。
「そうなの。よかった!安心して出かけられるわ!別荘行くけど翔ちゃんも行く?和臣置いていってもいいし」
「翔太は行きませんよ」
和臣が傲然と言い放つ。
「そういうところが嫌われるんでしょう」
え?別に嫌ってないけど。
「翔ちゃん、兄様嫌だったら僕の所きていいですよ?」
「え?いや、和臣と一緒でいいけど…嫌じゃないし…でも別荘いいね!きっと緑が綺麗だ。あ、理香さんも綺麗だし、篤臣くんはかっこいいけどね」
ほにゃっと翔太が笑って言うと二人が抱きついてくる。
「癒される…」
「母様、やっぱり翔ちゃん連れてこう」
「行きません」
和臣が二人を引き離す。
「いってらっしゃい。おりこうさんに留守番してますから」
にっこり和臣が笑ったのが怖い。
最近よくこの顔するよなぁ、と翔太は和臣をじっと見た。
今度は翔太が二人を見送って和臣と二人で離れに帰ってやっと落ち着く。
「翔太」
和臣に呼ばれてそっと近づくと和臣に抱きしめられた。
和臣は黙って出て行ったのも怒ってない。
翔太もそっと和臣の背中に手を伸ばしてぎゅっと抱きしめる。
どきどきする。
パニックになっていれば風呂場で裸で抱きつく事だってあるのに何でもない今すごく心臓が鳴っている。
たった<好き>って言う簡単な二文字の言葉なのに気持ちが全然違う。
柏木がちゃんと言えって言ってたのはこれか、と納得する。
「和臣…好き」
かなり恥ずかしい。けど、言ったら、和臣も返してくれるかな…?
ちらと和臣を見るとじっと翔太を見て考え込んでいた。
「かず…?」
「翔太、もう一度」
もう一度?
「好き…?」
「ああ……」
もう一度と言わんばかりに和臣が顎をしゃくった。
「和臣、好き、だよ。着物着てるとこかっこいいから見てるのも好き。何もしないでいる時も、俺がおかしくなってる時いつもついてくれてるとこも、俺様なとこだって…全部好きだよ」
和臣がぐっとさらに力をこめて抱きしめた。
「うん…好きだって言われるのはいいな。翔太、俺もお前の可愛いとこもおバカなところも好きだぞ?」
「……おバカはひどい!」
「そこが可愛いんだから仕方ないな。俺だけに縋ってくる所も。こんな感情はお前にだけだ。本当お前には驚かされる。慌てさせられて、焦らされて、俺をこんな風にするのはお前だけしかいないからな」
和臣の顔が優しく笑ってる。
そして手を伸ばしてきて頬を挟まれた。
こんな風に言ってもらえるなんて思ってもなかった。
「翔太、顔真っ赤」
そういう和臣の顔は全然普通。でも目が優しい。
「だってっ!」
軽くキスされる。
「もうすぐソファ届くだろう。すぐにでも昨日の続きといきたい所だが仕方ない」
昨日の続きって!
「す、…すんの…?」
「当たり前だ」
当たり前って…。
「嫌なのか?」
「…や、…なんじゃないけど…」
公言されてするのも、ちょっと…。
ますます顔が熱くなってくる。
そして目を和臣と合わせられなくなってしまう。
「別にお前は何もしなくていいから。するのは俺だし」
いや、なんかそれ違くないか?
「お前にいいようにしてやるから」
だらだらとヤル気満々な和臣に冷や汗が流れる。
「いいけど、その前にソファだ。場所はそうだな…座卓の向き変えるか。翔太、そっち持て」
「え?あ、うん」
座卓の向きを変えてテレビの真正面に来るようにソファを置くらしい。
和臣が楽しそうにしていた。
「…………」
呆れたような和臣の視線は分かってた。
「いいね~~!」
黒の革張りのソファが届いて部屋に鎮座された。
和臣がソファに座って翔太がその横に丸まって寝転がれる。
座ってる和臣に手を伸ばせばすぐ届く。
書き物がある時はだめだけど読み物だけの時ならずっとこうしてられるのはいいかも!
「ご機嫌だな。いらないとか言ってたのに」
「うん。別になきゃないでいいもん。でもいい…」
横になって下から和臣を見上げると和臣がふっと笑って唇を合わせてきた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学