55 翔太(SHOUTA)
ゴールデンウィーク中、結局出かけたのは1日だけだった。
ソファで横になって隣で涼しい顔で本を読んでいる和臣を翔太はじっとりと見上げた。
身体がだるい…。
初めてされた次の日はもう身体は自分のものじゃないみたいで1日ずっとだらだらとソファの上で過ごした。
その次の日はまぁ動けるようになって、そしたら和臣が水族館に連れてってくれた。
小学校以来で何気に新鮮で楽しかったけど…。
そして今ソファで横になってる翔太が抱きしめてるのは和臣が買ってくれたでっかいイルカ。
それでも抱きしめてろってことか?
でも…と思い出して思わず顔が赤くなる。
だってまるっきりデート、だろ。
いや、嬉しかったけど!でもちょっと恥ずかしい。
それはいいけど、帰って来て夜にまたイタされて。
やだって言ったのに。
そしてまた翔太は動けなくなって、こうしてソファでごろごろして、そうさせた本人は涼しい顔だ。
最初の時よりかは全然ましだけど…。
本を読んでいる和臣の手が伸びてきて翔太の髪を撫でる。
思わずそれにすりと頭をこすり付けるようにした。
もう条件反射のようで、なんか悔しい。
すると和臣がくっくっと笑い出す。
「ホント猫みたいなヤツだな」
猫!?
物扱いじゃなくなったと思ったら今度は猫!
思わず翔太はむぅっと口を尖らせた。
文句を言おうかと思ったら和臣の携帯が鳴ったので言葉を引っ込める。
和臣が翔太から手を離して携帯を見ていた。
またメールらしい。
そしてまた何回もメールのやり取りを始める。
誰だよ…?
そして何回かのメールの後和臣が満足そうな笑みを浮べた。
「あとはお前の問題だけだな」
「?」
翔太の問題?
首を傾げると和臣が眉間に皺を寄せた。
「阿部だ」
ああ…と翔太も顔を顰めた。
あの下卑た顔を思い出すだけで嫌だと嫌悪感が湧く。
和臣の手がまた伸びてきたのでイルカを離してその腕にしがみついた。
和臣にされた事を思い出し、顔を赤らめてからアレを和臣以外にされたりしたら…と考えただけでも吐き気をもよおしそうだ。
和臣がもう一つの手で翔太を撫でてくれる。
大丈夫だからと言ってくれているのを感じてやっぱりすり、と頭をこすりつけた。
ゴールデンウィークも終わってまた学校。
結局今年のゴールデンウィークは水族館だけ。
それが不満なんじゃないけど、…だって遊びに行くのでも今までとは全然意味が違ってたから。
それも学校が始まればもうなんか普通、って感じだ。
朝も帰りも和臣と一緒が普通になってそれに慣れたのか他の生徒の視線もそんなに翔太に突き刺さらなくなって翔太も気にならなくなってきた。
相変わらずお昼休みには柏木と一緒に生徒会室に行って、放課後和臣が生徒会の仕事があれば柏木と一緒に待つ。
教室で待ってたり、図書館で待ってたり。
この日は図書館で一緒に待っていた。
柏木が教科書広げてるのに仕方なく翔太も広げる。
でも柏木は教科書眺めてるだけ。
「なぁ…ここ、なんでこうなんの?」
ノートを見せながら柏木に聞けば淀みなくこれこれこうなって、と説明してくれて納得する。
これ位出来るのに教科書眺めてるってすげぇよな、と思わずじっと柏木を見た。
「何?」
「いや、お前勉強好きなんだ?」
「いいや。好きでもない。別に嫌いでもないけど」
小さい声で聞いてみれば柏木が肩を竦めて言った。
「今回は特別なんだ」
わけが分からないけど。まぁ、人の事だからどうでもいい。
問題は自分だ。大丈夫かな、とかなり不安だ。
和臣と柏木に教えてもらうけれど、どうしてこう自分の頭は飲み込み悪いかな、と嫌になってくる。
柏木が真面目に教科書を眺めるので翔太もちゃんとノートに問題を解いていった。
かたん、と柏木の向こう隣に誰かが座った。
その姿を見て翔太はもろに嫌な顔をした。
何故かゴールデンウィーク終わってから柏木の周りにちょろちょろと現れる。
翔太はあんまり人見知りもしないし、基本は人を嫌うという事はないのだけれど、何もしていないのに無視するこの五十嵐は大っ嫌いだった。
チッと翔太が小さく舌打ちして顔を顰めると柏木が苦笑してた。
テーマ : 自作BL小説
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