56 翔太(SHOUTA)
「アイツなんなの!!?」
車の中で和臣の腕を掴んで揺すった。
「なんで俺無視!?別に話したいわけでもねぇけど!ちょームカツク!」
和臣が苦笑してた。
「まぁ仕方ないな。話す必要もないからそのままにしとけ。下手に突っかかるな。文句は俺に言っていいから」
「なんで和臣に言わなきゃないんだ?別に和臣が悪いんでもねぇのに」
「ま、そうだけど。とにかくアレに翔太は関わらなくていいから。柏木が自分でどうにかするだろ」
「?」
わけわかんねぇ。
「…気にするな」
「……分かった」
和臣がそう言うなら、と頷くけど、面白くないのは面白くない。
「それより三日後の夜にパーティに出ないといけなくなった」
「えっ!?」
夜!?
夜はやだ…。
「須崎の招待で断れない」
しかも和臣がお見合いしたっていう須崎…。
ぐっと翔太は唇を噛み締めた。
でも一条の家の事に翔太が何かを言えるはずなんてない。
「お前も来い」
「やだっ!」
「は?」
「な、んで、俺行かなくちゃない、のさ?」
「………お前一人で夜いられないだろう?」
それは無理だ。
お父さんはきっと和臣のお父さんもパーティーに出るだろうからそれに行くはず。篤臣くんとこ…。
「篤臣も出る」
う…。
「ホームパーティ、と謳ってるからウチは皆出るんだ。篤も行くから遅くはならないが…」
でも日が暮れてから夜一人は無理だ…。
「多分学校のやつ等も何人かはいるはずだろうから俺の友人だといえば支障ないだろう」
「……あるよ!絶対!だって俺は別に金持ちでもなんでもねぇし!」
「将来俺の横に立つ気なら出ててもいいと思うけど?」
「え?」
翔太は目を大きく見開いて和臣を見た。
「仕事、俺につくんじゃないのか?」
「え!?い、いいのっ!?」
「俺はそのつもりだったけど?まぁ、翔太が出来るのは俺のケア位だろうけど」
和臣のケア?
「なにしろお前がいないと気になって気になって仕方ないからな。隣にいれば安心出来る」
………なんか違う。
「親父にももうパーティーの許可はとってあるから出ていいんだ」
「え?」
早い。…和臣なら当然か。
「いいな?」
「和臣と和臣のお父さんがいい、なら…」
「お前をだめと言うヤツはウチにはいない。もしパーティで俺が忙しいようだったら篤臣と一緒にいるように」
「…うん」
パーティーね…。
普通の一般人には無縁の世界だ。
和臣と篤臣くんと翔太とで須崎のパーティが行われるホテルに向かった。
急遽作られたスーツに翔太は身を包んでいる。
制服は学ランだしスーツなんて着慣れなくて自分は絶対場違いだ。
小学生の篤臣くんのほうがずっとしっかりしてる。さすが一条の子だとやっぱり感心してしまう。
「篤臣、翔太を見てろよ?俺もなるべくは目を離さないようにするが」
「兄様はね…無理でしょう。分かってますよ。翔ちゃん僕から離れないでね?」
「…うん」
頼りは篤臣くんだ。
ってのも情けないけど、こっちは一般人なんだから仕方ない。
和臣と篤臣くんと一緒に中に入るけど、やっぱり世界が違いすぎる。
そりゃあ、須崎も旧家らしいし、大臣までなった位だからどうしたって一般人でなどではないのは当たり前だ。
人が多い。
確かに子供の姿もあるけれど翔太には別世界の話だ。
和臣のお父さんとお母さんもいるはずだけど探すのは無理だと思う。
「翔太、いいかここの場所をちゃんと覚えとけ。もし万が一迷子になったらここにいろ」
エントランスにも広間にも大勢の人だ。
そのエントランスの大きな大理石の像の前で和臣が翔太に注意したのに翔太はこくりと頷いた。
やっぱ帰りたい。
帰りたいけど、一人も怖いし。
「翔ちゃん、手繋いでおこ?僕だったら手繋いでたって子供だから変じゃないでしょ?」
「うん」
篤臣くんの小さい手と手を繋いだら和臣が片眉を上げてたけど、でも何も言わなかった。
本当は和臣と手を繋ぎたい。そうしたら安心するのに。
「兄様?ほら。翔ちゃんには僕がついてるから。まず須崎に挨拶してくるの先でしょ?」
「……分かった。翔太、篤臣といろ」
「…うん」
和臣が人の中に入っていった。
でも背が高いし皆が和臣の前だと皆が避けて道を作るので和臣の姿は目に見える。
「翔ちゃん、そんなに不安?」
「え?そんな事…」
「あるでしょ。なんでそんなにお兄様がいいかなぁ?」
なんでと言われても…篤臣くんの言葉に思わず翔太は顔を俯けた。
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