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熱視線 即興曲~アンブロンプチュ~3

 明羅は自分で自分が信じられない、と思った。
 声をかけられてのこのこと車に乗って怜の家まで連れて来られて料理を作ってもらって顔を合わせて食べているなんて。
 自分の欲しい音を全部持っている人。
 やっぱりそれを確かめたいとも思った。
 でも、と逡巡が浮かぶ。
 それを自分の中で何回も繰り返した。

 そんな明羅の様子を怜はただ見ているだけでやはり質問も何もしてこない。
 「…何も聞かないの?」
 じっと怜に見られて幾分居心地悪くなり明羅は口を開いた。
 怜は明羅を検分するかのようにじっと視線を逸らさないまま見ているのだ。
 笑うと表情が崩れるがじっとしているとその切れ長の目は明羅を見透かしているようだと思えてくる。
 「……そっちこそ。弾け、聴かせろって言わないのか?」

 だって複雑なんだ。
 自分がこうありたいというのを他人が持っているのが。
 聴きたいけど聴きたくない。
 でも聴きたい。でも聴きたくない。
 ずっとそれがぐるぐる回っている。
 「お前弾く?弾けるだろ?」
 「冗談っ!」
 明羅はぶんぶんと首を振った。それは悪趣味すぎる。それは絶対に嫌だ。
 「…俺は自分が分かっている。絶対に弾かない」
 明羅の答えに怜は肩を竦めた。
 「つまらんな。ま、いいけど…。どうせここにいりゃ俺のは聴くことになるだろう。演奏用ではないがな」
 きっとそれでも明羅は打ちのめされるのだ。
 こくりと明羅は頷いた。

 「コンサート…ずっと本当に年に1回だけ…?」
 「大きいのはな。あとはライブハウスとかで気が向けばたまにジャズセッションとか。告知はなしにしてもらっているから」
 シークレットなのか!知らなかった!聴きたい!知っていたらいくらでも通っただろうに。
 素直に明羅は思った。
 そう明羅が思ったのを怜は感じ取ったらしい。怜がくっと笑いを浮べたのに明羅は顔を赤くした。
 「今日は弾かないが、お前は何が聴きたい?」

 何が…?
 何でもいいのだ。だってどれもが明羅の欲しい音だ。
 「何でも…。怜さんの弾きたいやつでいい…」
 「なんだ。リクエストはなしか」
 つまらんと怜は苦笑した。
 変な人。
 突然声をかけてきてそのまま明羅を自分の家まで連れて来て、そして何も聞かない人。
 「…何も聞かないの?」
 もう一度同じ質問をしてみた。
 「おいおい聞こう。見たところではいいとこのおぼっちゃまだろう?そしてピアノを弾く。それに俺に執着してる」
 くつくつと笑っている。

 執着。
 そうかもしれない。ファンじゃない。
 「…そうかも」
 「理由までは分からんが。音楽学校の生徒?」
 明羅は首を振った。
 「違う」
 「違うのか。そうだと思ったんだが」
 それでも怜はそれ以上聞いてはこなかった。
 正直根掘り葉掘り聞かれても困る事ではあったので助かる。
 今はまだ話したくはなかった。
 その空気もきっと怜は覚っているのだろうと思う。
 居心地がいい。
 独特の空気感が明羅を安心させた。
 何故こんなに素をさらけ出しているのか。

 「あ、お前さっきPC見てたな?使えるんだな?」
 「まぁ」
 「ブログとか出来るな?」
 「…………そんなのは誰でも出来ると思うけど…?」
 「俺は出来ない」
 怜が言い切ったのに明羅は呆れる。
 「明日一人客、ってほどのものでもないが人が来る。ずっと俺の後ろ盾ってほどではないが勝手に決めていく奴だ。それにブログかフェイスブックかツィッターかやれって言われていたんだが。お前代わりにやれ」
 「……それダメでしょう」
 「俺が許す」

 二階堂 怜は唯我独尊系だったらしい。
 「まぁ、怜さんが言った事とかをupするってだけならいいけど」
 「よし」
 「……教えるから覚えたら?」
 「そんな気はさらさらないな」
 「………」
 明羅の言葉が敬語じゃなくなっても怜は何も言わなかった。
 「お前家は近いか?」
 「…一応。電車一本で来られる」
 「それは好都合。学校始まっても来られるな」
 夏休み中だけでなくこれからもずっと来ていいという事なのか?
 明羅は怜をじっと見た。
 「なんだ?」
 「……なんで俺?」
 「…さぁ?なんでだろ?お前が傍にいても違和感がないから、かな?」
 明羅がそう感じていたように怜も感じていたらしい。それが妙に面映かった。
 
 

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