「写真入れないほういいと思いますよ?」
PCでメニュー表をどうしようかと悩んでいたら莉央がそれを覗き込んで言ってきた。
「そうか?だって写真見て決めたりもするだろ?」
「じゃあ全部じゃなくて定番のだけとか。ミートソース?ボロネーゼ?名前どっちか知らないですけど、それ位とか。メニューに説明文載せた方だけの方が何となく高級感増しますもん。それに綾世さんの料理綺麗だから出てきた時にわぁ!ってなると思いますよ?写真載せたらそれ薄れちゃいますから」
「……そう、か?」
「絶対」
ふぅん、と綾世は客側の立場の方の利央の意見を取る事にした。
「じゃ、コレ入力してもらっていいか?」
「いいっすよ~」
手書きでメニューを書き出していたものを莉央に渡す。
「順序とか適当でいいから」
ざっと莉央がメニューに目を通していた。大体莉央はすでに一昨日と昨日で口にしているはず。
「…コースとか…いいっすね…」
「デートで来れば?」
「だからいないって言ってんのに…ふられたって言ってんのにひどいですよ…。はい、黙ってしますよ」
莉央はレジの狭いカウンターの内側に置かれたPCの前に座ってかたかたとキーボードを打ち始めた。
くすくすとまた笑いが漏れる。
こんなに自分はまだ笑えるんだ…。
「笑いすぎです」
むっと莉央が口をとがらせるのにまた笑ってしまう。
そういえば今日は営業スマイルが出ていないな、と莉央の顔を伺うように見た。
仕事じゃないからか?…きっとそうだろう。
午後からパスタが届いて夕飯はトマト系のリクエストだったので残っている食材で作る。
でも莉央の食欲を見ればもっと食べるか?とクリーム系も作る事にした。
綾世自身もクリーム系は好んで食べることはないけれど、トマト系を、と迷わず言った莉央がクリーム系を好まないであろうが反応が見たいと思った。
サラダも作って昨日の残りのマリネをドレッシング代わりにする。
「あれ?クリーム系も?」
「莉央は足らなさそうだと思って」
「…うん、確かに」
素直に頷いているのに、やはり口角は緩む。
「具材は適当だ。ある物で。スープも即席」
「全然OKですよ~。うまそ…」
綾世は莉央が美味しそうに食べているのを見ているだけで満足になる。
そして自分はやっぱり少しつまむだけであとはもう受け付けない。
「……食わなすぎです」
莉央が真面目な顔で綾世を真っ直ぐ見た。
「なんですか?この腕。細すぎでしょ」
綾世は莉央にぐっと腕を掴まれてうろたえた。
「…はな、せ…っ」
「…折れちゃいそうですよ…?」
すぐに莉央が腕を離したので綾世は安堵の溜息を吐き出した。
…というか、焦りすぎだ、と綾世は自分に恥かしくなった。
これじゃまるで思い切り意識しているみたいじゃないか。
そう思うのは自分だけだろうけど、と冷静になれ、と頭の中で綾世は考える。
「綾世さん?」
呼ばれて莉央を見たら営業スマイルだ。
なんで…?
「聞いていいのかな…?」
「何、を…?」
ダメだ。なんか、コレを聞いちゃいけない気がする。
「綾世さん、男の人好きなの?」
「っ!」
ぐっと綾世は息を飲み込んだ。心臓がばくばくと脈打ち始める。
「な、に…を言って」
「動揺しすぎですよ?それじゃごまかせませんって。綾世さん抱かれる方?俺、少しは俺、意識してもらえてる…?」
「なにを、馬鹿な…お前は女と付き合っていたんだろう?」
「ええ、そうですよ。でも別れて今フリーですから」
「そう、じゃない、…だろう…」
「何がです?だって綾世さん綺麗だし、それに…なんかほっとけねぇ、って感じ」
「…別に頼んでない」
「いや、そうですけど。俺が勝手にそう思ってるだけです。綾世さん付き合ってる人いるんですか?」
「………いない」
「なら、俺考えてください」
そんな簡単に言うな。
「ダメですか?」
「……ダメだ。考えられない」
「そう、ですか………。あ、でもここに来ていいですか?」
ダメだ、と言ったのに莉央は全然堪えている風もなく明るく笑った。
「ここの店、もう俺ん中で特別ですから。店にまで来るな、って言います?」
「……いや、そんな事は、ない」
「ならよかった。あ、気にしないでいいですよ?俺普通に出来ますから」
そう言っているように莉央は確かに普通だ。
普通だけど…いいのか、それで…?
「………分かった」
それでも綾世は頷いてしまった。
店に来るんだから…。客だから…。
そう自分に言い聞かせていた。
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