お昼はあるものでピザを作って食べ、午後は莉央に車を出してもらって買い物に出かけた。
莉央が車を取りに行ってきますと言って戻ってくるまで5分位か?どれだけ近いのか…。
自分もそれくらい近いならとちょっと羨ましくなる。
綾世だって暖かい布団で寝たい、と思った。
「…お邪魔します」
「どうぞ~」
車にタバコの匂い。
「…煙草、吸うのか?」
「吸いますよ」
莉央はCDを入れ替えながら答えている。
「…吸ってよかったのに…」
「いいですよ。店に煙草の匂いはダメでしょ。吸う方は気にならないけど吸わない人は気になるでしょうから」
「…じゃ、今吸っていい。僕の事は気にしなくていいから」
「綾世さん嫌じゃない?」
「…別に嫌じゃない」
「ヘビーではないんですけどね…じゃ、すみませんけど」
莉央はダッシュボードの上に置いていた煙草を手に取り一本咥えると火をつけた。
なんかたったそれだけの仕草なのに男の色気みたいなのを感じて思わず綾世は莉央から視線を背けて窓から外を眺めた。
「車、出しますよ?」
「…ああ」
煙草を咥えたまま車を操る莉央がなんかちょっと余計にカッコよく見えてしまう。
「綾世さん、この辺詳しいですか?」
「いや、全然…。教えて貰えるとありがたい」
「いいっすよ~」
莉央が軽やかに答える。
「業務用の店も近くにありますよ。ウチより安い…かも…」
声を小さくして莉央が言うのに綾世はくすっと笑った。
「そんなの知ってる。配達して貰うんだから仕方ないだろ」
「……ん~…そうなんですけどね…。あ、配達、俺でいいすか?本当は俺は営業だからそんなに配達とかは行かないんだけど。時間が夜でいいなら」
「全然構わない。どうせ日持ちするものばかりだ」
「じゃ、俺帰る時に店に寄る様にします。あ、開店するまでは昼に行きますね」
莉央の所に頼むのは油や粉などで在庫出来る物だからそれは構わないけれど…。
「今週の昼はいいけど。夜だと、それじゃ莉央の業務時間外になるだろう?」
「別にいいですよ。綾世さんとこは特別で」
莉央の営業スマイルだ。
「その先、業務用の店っすけど…よってみますか?」
「…いいか?」
綾世が伺うように言えば莉央はモチロン、と車をスムーズに駐車場に入れる。
店の中に入って綾世は自分の使う物など見て歩くが莉央は仕事の顔で値段を見て歩いているのに苦笑が漏れた。
「莉央…仕事の顔になっている」
「あ…すんません」
莉央も苦笑した。
「何か買いますか?」
「…そうだな。とりあえず少し…」
綾世は試食用の必要なものを手にする。
「俺も買っていこう…カゴ一緒でも?」
「ああ。そんなには買わないから」
大の大人の男二人が並んで買い物ってなんか変な感じがする。そう思うのはきっと何となく疚しい気がする自分だけだろうけれど…。
その後莉央にホームセンターやら百均やらと連れて行ってもらい、最後に普通のスーパーに寄った。
自分で料理すると言った莉央が食材を迷う事なくカゴに入れていく。
「綾世さん食べられないのってあります?」
「…特にはないけど…」
これは夜の分か?さっき言っていた?本気か?
訝しげに綾世は莉央を見た。
「俺の食ってくれますよね?」
確認するように莉央に言われれば嫌だ、とはまさか言えない…。仕方なく綾世は小さく頷いた。
すると莉央がにっと笑う。
「なんか綾世さん、店以外でも出来るやらなきゃない事ってありますか?書き物とか」
「それはもちろんあるけど…」
「じゃそれ持って俺用意してる間ウチでやってて下さい。それなら時間無駄じゃないでしょう?」
それはそうだが…。
「別にそこまでして…」
「いいから!」
カゴを見ればいっぱい食材が入っている。
そんなに…?
「これは今日の分だけじゃないっすから」
眉を顰めた綾世に気付いたのか莉央が笑って答えた。
「俺弁当男子なので」
「へぇ…」
一人暮らしでまめな事だな、と莉央を思わずじっと見た。自分だったら絶対しない、と思う。
会計を終え、莉央は車を先に綾世の店の前に寄せて、買った荷物を下ろし、片付ける。
細々とした物も莉央がさっさと片付けて、綾世は莉央に促されるまま莉央の部屋でも出来る書類を用意し、それを持つと再び莉央の車に追い立てられるようにして乗せられた。
どうにも莉央にうまくあしらわれていると思う。
でもそれをがんとして断れないのは自分だ。
危険だ、と分かっているのに。
すでに昨日今日でさらに存在感は増している気がする。
だいたい一番初めから莉央は特別だった。
なんと言っても虹を一緒に見たのだから…。
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