なんて夢を見たんだ、と思いながら綾世が目を開けたら見知らぬ天井。
「え……?」
身体を起こそうとしたら身体に甘い疼痛が走る。
嘘だろ…。ベッドに座って綾世はぼうっとしていた。
ええと…?どうしたんだっけ…?
「あ、起きました?ちょうど起こそうかどうしようか迷ってたんですけど」
上半身裸で莉央がドアの所に立っていたのに綾世はぼうっとした頭が急に覚醒した。
「すみません、大丈夫ですか?」
綾世は呆然として莉央を見た。
そして昨晩の事を思い出してかっと顔を火照らせる。
した、んだ!夢じゃない!
ぎしっとベッドに莉央が腰かけて綾世の顔を覗きこむと軽くキスしてくる。
「っ!」
綾世はびくっとして口を抑えた。
「あの……綾世さん初めて、じゃないです、よね…?」
莉央が綾世の顔を覗きこみながらそう聞いてきた。
「あ、たりまえ、…だ」
「…ですよね…感じてたし。でも……」
莉央がじっと綾世を見ていた。
「なんだ?」
「いや、反応が可愛いなぁ、と」
「28の男に向かってそれはないだろ!?」
「いえ、ホント…」
莉央の口が笑っている。
それにかぁっとますます顔が熱くなってくる。
次々に莉央にされた事を思い出してきた。
いいように指でイかされて、泣いて縋って、腰振って莉央が中に入ってきて絶頂を迎えたんだ。
それにしては身体がさっぱりしてる。
「?」
「身体はちゃんと綺麗にしておきましたよ?」
莉央の言葉に耳まで熱くなってきた。
なんでコイツはこんな平然としてるんだ!?
そしてなんでコイツは綾世が言いたい事が分かるんだ!?
「綾世さん起きられます?」
「…大丈夫、だと思うけど」
莉央が優しく丁寧にしてくれた事は分かる。久しぶりだったけど全然痛みも感じないから。
そういえばぐっすりと眠れたからかかえって気分はすっきりしている。
思わず綾世は考え込んでしまった。
朝もいつもはもっとぼうっとしているのに…。
「うん…顔色いくらかいいかな。起きられるなら着替えしてこっちにどうぞ。あ、服はもう乾いてますから」
莉央に服を手渡された。ちゃんと洗濯もしてくれていたらしい。
莉央が自分の着替えを終え、部屋を出てからのろのろと綾世は着替えた。
なんでこんなことに…。
まだ頭の中はぐるぐるしているけどもう終わってしまった事を今更言っても仕方ない。
莉央と寝た、んだ。
思い出せば身体がまだ疼きそうになるのに綾世は頭を振った。
「あ、綾世さん、それ食べてて」
着替えた綾世に莉央がテーブルを指差した。
またお茶漬けだ。
…おいしいからいいけど。
今日は野沢菜が刻んであるのが入っている。
椅子に座ってスプーンで湯気のたつ茶漬けを食べていると莉央はスーツの上着を着る。
「綾世さん、俺、行く時間なんで出ますね。ここの鍵渡しておきます。あとお昼位に店の方に行きますからお昼食わしてもらっていいですか?」
「え?ああ。それはいいけど」
思わず頷いてしまってからなんで素直にいい、なんて言ってるんだ?と自分に腹立たしくなる。
「じゃ、すみません。行ってきます!あ、歯ブラシとか洗面台の扉とかに確か入ってるはずだから出して使っていいですから。タオルとかも好きにつかってください!じゃ」
莉央がじゃ、と言って綾世に軽くキスしたのに目を見張る。
どうしても綾世は朝はぼうっとして反応は遅くなってしまう。
「あ!莉央っ」
ばたばたと出て行こうとする莉央を思わず呼び止めた。
「はい?」
「あ………と……いってらっしゃい……」
テーブルに座ったままで小さく小さく呟いた。きっと顔は真っ赤になっているはず。こんな事言った事もない。
「…行ってきます」
そっと莉央の顔を伺うように見たら莉央の顔が蕩けそうになっていた。
その顔は別人だろ!?
「やばっ!」
じゃ、と莉央は小走りに出て行った。本当に時間が迫っているらしい。
それに思わず綾世は笑ってしまった。
…笑っている。
昨日莉央に抱かれて笑っている自分はなんなのだろう…?
それになんでこんなに落ち着いていられるのか?
それにこんなに心が安定して、身体も軽い。
いや疼痛はあるけど。肉体的にじゃなくて、精神的に、だ。
しかしいいのか?ここの鍵を綾世に渡してって…。
「普通渡すか?」
思わず莉央を心配してしまった。
テーブルに置かれた鍵。
お風呂も入って、睡眠もとって、食事に性欲まで…。
なんか全部がすっきりしてる…?
綾世は頭を抱えた。
どれだけ自分は鬱屈が溜まっていたのだろうか。
お茶漬けを食べ終え、食器を洗い洗面台で歯ブラシを探す。
いい、って言ってたんだから!
無理やり、ってほどでもないけど、ヤられたんだから別にこれ位いいだろう!と綾世は開き直って新しい歯ブラシも使ってやる。
いいけど、使った歯ブラシをどうするべきか?持ってく?置いてく?
洗面所でしばらく悩んでしまった。
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