携帯が鳴ったので誰かと思ったら莉央からだった。
『もしもし綾世さん?』
「…はい」
莉央は普通の声。綾世はなんと出ていいか困ったのに。
『すみません。今外に出てて、行くの1時過ぎると思いますけど、いいですか?』
「……いいけど」
『じゃそれ位に行きますね!』
忙しいのか莉央はすぐに電話を切った。
素っ気無いヤツだな、と思って違うだろ、と自分に突っ込む。
莉央とは別に何でもない!
何でも…。
時計を見ると11時半過ぎ。何を作ろうか?
昨日はかなり手伝ってもらって車まで出してもらって助かった。それに夜ご飯に風呂まで…。
そのあとは自分が食べられてしまったけれど。
ぶるぶると綾世は頭を振った。
でも確かに今日はかなり体調がいい。
そして精神的にもだ。
はぁ、と綾世は溜息を吐き出す。
だめだろ。
あんなに警鐘がなっていたのにやはり、と頭を抱える。
一度きりだ。
でもどうして莉央は綾世を?
女と付き合っていた、暮らそうとしてたという位だから元々男が好きだったわけではないだろう。
綾世はどうしたって女に目はいかなかったけれど莉央は違う。
それなのに何故?
それになんか莉央は思わせぶりな、含んだ言い方をしていた。
どういう意味だ?
そして待つ、とも言ってた。
何を?
それより莉央の言った言葉が綾世に強く残っていたのは虹だ。
そう、虹を一緒に見たんだ…。
この店で一番初めに。
綾世は客席から身を乗り出して外を眺めた。勿論虹なんて出ていない。
それを確かめてから綾世は厨房に入った。
「すみませんっ!」
カランとドアに下げてあるカウベルの音と一緒に声がして莉央が姿を見せた。
そしてキッチンの方にすぐに顔を見せた。
「綾世さん、注文はしました。揃ったのから持ってきた方いいですか?」
「え?ああ、そうだな。一気に持ってこられても困る」
「ですよね。了解です」
「……忙しい、のか?」
「ええ!ちょっと。クレームがあって物品回収と謝りに走り回ってました」
はぁ、と莉央が溜息を吐き出す。
綾世は水をグラスに分けて莉央に差し出した。
「ありがとうございます。またすぐに出なきゃないんですけど。あ、コレ綾世さん食べてください。俺食ってる暇なさそう」
弁当を綾世に差し出してきた莉央は少々いつもよりも髪も乱れているし本当に時間がないらしい。
「5分だけ待て。ピザ焼いてやる。そしたら運転しながらでも食えるだろ?」
「ありがとうございます。綾世さん、身体平気?」
「っ!……」
今それを聞くんじゃない!と綾世は声を詰まらせた。
「仕事ちゃんとはかどってる?」
「……大丈夫、だ」
「よかった」
莉央がほっとしたように笑っている。
綾世はピザ生地を4等分に切り分け、さらに真ん中に切れ込みを入れトマトソースとチーズと野菜を中に詰めて焼き上げた。
「これだと手も汚れないだろ?」
「うわ!マジでありがたいです!助かった!」
それを紙に包んでやって莉央に手渡す。
「弁当、食ってくださいね?あと俺も今日は何時になるか分からないんで帰り店に寄らないです。その代わり綾世さん夜に一段落したらウチに空の弁当箱届けてもらってもいいすか?」
「ああ。分かった」
莉央は頷いてじゃ、!とキッチンから出て行こうとしたのにまた戻ってくる。
「どうした?忘れ物か?」
「ええ!」
目の前まで来たと思ったら莉央がちょっと屈んで綾世にキスしてきた。
「な!…んで……!?」
そういえば朝はぼうっとしてたから突っ込まなかったが、朝もされてた。
「へへ。朝のいってらっしゃいが嬉しかったですよ~!じゃ、ばたばたしてすみませんけど行ってきます!ピザありがとうございます!車で味わって食いますね!」
「あ!水、持っていけ!」
「ありがとうございます!」
ペットボトルを投げてやると莉央はそれをキャッチして、またばたばたと出て行った。
忙しいヤツだな。落ち着いたヤツだと思ってたんだけど違うのか?
いや、土日はそうじゃなかったから本当に忙しいんだろう。
……弁当?
昼は食わせて、って言ってたはずだよな?
そっと莉央の置いていった弁当を開けてみる。
あいつのにしては小さくないか?
綾世はかぁっと顔が赤くなった。
これはきっと食わない綾世用だ。わざわざ作ったんだ。
だからどうしてこんな事するんだ…!?
綾世は弁当に副えられていた箸でそっとおかずを摘んだ。
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