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熱視線 狂詩曲~ラプソディ~8

 放心している明羅に笑いながら生方は帰っていって、怜は明羅をそのまま放置してピアノの蓋を開けた。
 怜のピアノの音に明羅ははっとする。
 ああ、聴きたかった音だ。
 それにほっとした。
 指馴らしがいつもよりも長い。
 それでもいい。明羅はほうっと息を吐き出した。

 午前は指馴らしで終了らしい。
 「午後、な」
 怜がふっと笑って、明羅ははたと意識を取り戻した。
 「さっきの!どういうこと!?」
 「どういうって…お前が聞いたままだろ」
 怜がなんでもない事のように言った。
 「お前さ、親に連絡とれる?」
 「え?そりゃ、電話すれば。時間があれば出ると思うけど。なんで?」
 「一応許可取ったほうが…」
 「え?あ、別にいいよ。そんなのでいちいち連絡しないで。あの人達忙しいから。俺自由にしていいって言われてるし。自分達も自由にしているからって」
 「…………」
 怜は眉間に皺を寄せた。
 「そんな難しい顔しないでよ。別に仲悪いとかそういうんじゃないよ?信頼はされてると思うし。お母さんと会った事あるなら分かるでしょう?ぽややんってしてるでしょ?」
 「……確かに。少女のような女性だったけど」
 「お父さんも。とにかく音楽が一番の人達だから。あっちが都合よければ連絡くれるし。その時でいいよ」
 「…いや、…そう…なのか?」
 うん、と明羅は頷く。

 午後、約束していたハンガリー狂詩曲の2番。
 やっぱりいい…。
 明羅に陶酔が訪れる。
 どうして怜の音楽は明羅をこんなに夢中にさせてしまうんだろう。
 いつも思うけど身体のまわりに音が氾濫してしまっているように感じる。
 音に慣れてもいいだろうにやっぱりぞくぞくと背は戦慄を覚える。
 何故だろう?
 こんなざわざわさせる演奏ってそう簡単に出来ないと思うのだが明羅はいつも怜の音に翻弄されてしまう。
 そして怜の音が鳴り響けば明羅の頭の中にも音が溢れてくるのだ。
 家に帰ってからは全然触る気の起きなかったパソコンだが、怜の音を聴けばもう触りたくなる。
 でも籠もっちゃうと折角の怜といる時間が減ってしまうのが嫌だとも思ってしまう。
 困った、と思いながら怜の音に身を委ねた。

 演奏が終わると、頬が紅潮してやっぱりうずうずしてくる。
 「怜さん、…」
 明羅は怜の座ってる脇に近づいた。
 「何?あっちか?」
 怜が明羅の顔を見て分かったのかパソコンの部屋を指差したのに明羅はこくんと頷く。
 「行って来い。俺もずっと練習するつもりだったから。俺の音は邪魔じゃないか?」
 「大丈夫。ヘッドホンするし、怜さんの音があった方が絶対いいから!」
 「んじゃ行って来い。楽しみにしてる」
 怜が笑ってた。
 「ん…。あのね、怜さん練習終わったら声かけて…」
 「ん?」
 「なんかいつも、気がつくと夜になってる、でしょ?折角怜さんといるのに、それだとや、だから…」
 「……わかった」
 怜が口角を上げて明羅の頭を撫でた。
 「…ほんと可愛いよな…」
 はい?

 「んじゃ行って来い」
 「う、うん…」
 今、可愛い、って呟いたよね?
 自分の事、なのかな…?
 まだ、怜さんはそう思ってくれてる…?
 怜さんがまたピアノを弾き始めた。
 その音に引きずり込まれて動けなくなりそうになるが明羅はパソコンの部屋に入った。
 怜さんが練習してる間だけ。
 まだ、今日も泊まれる。
 時間はあるから大丈夫だ。
 可愛いって。
 CDにコンサートに。
 なんか色々考える事はあったけど、まずそれは考えない事にして。
 明羅はパソコンを立ち上げてヘッドホンをした。


 曲が長くなりそうで一旦きりのいい所で明羅は意識を現実に戻した。
 もう部屋が薄暗くなっている。
 そして怜のピアノはまだ鳴っていた。
 もう5時間…?
 ずっと弾きっぱなし、だろうな。
 コンサートとかCDとか言ってたからきっと本格的に練習するのだろう。
 そしたら明羅は邪魔かもしれない。
 あ、ソナタだ…。
 明羅の怜のためのソナタ。
 さらに進化してる。
 うわぁ、と明羅は自分の顔を隠した。
 弾き込んでいる。
 きっと明羅が家に帰った後も弾いてたんだ。

 嬉しくて。嬉しくて。
 泣きたくなってきた。
 
 

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