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虹の指針 22

 自分は案外図太いのだろうか…?


 莉央のベッドに座り込んで綾世はぼうっとしていた。
 朝はいつも頭がぼうっとしてるけれど隣に寝ていたはずの莉央が起き出す気配も取れない位に熟睡しているのか?
 あまり一人で寝ても睡眠は取れていなかったはずなのだが。


 「あ、起きてる。綾世さん、おはようございます」
 がちゃっとドアが開いて莉央が顔を出すと綾世に近づいてきてキスしてくる。
 だからなんで普通にコイツはキスしてくるんだ?
 そして莉央は着替えをし始めた。
 「ご飯食べてくださいね。あと弁当、持ってってください。俺、今日も忙しくて顔出せないかもですけど…あと、夜アパートまで送って行きますから」
 「え?……別にいいよ」
 「いいえ!じゃないと心配ですから」
 心配って…。


 ぼうっとしたまま着替えをする莉央を綾世は見ていた。
 「あ…もしかしてもう出るのか…?」
 「ええ!昨日のクレームのおかげで早くに行かないといけないんです。すみません。店の方に行ける時は行きますけど…無理…かな…」
 はぁ、と莉央が溜息をついていた。
 「じゃ、行ってきますね」
 莉央は着替えを終えるとまだベッドの上でぼうっとしている綾世にちょんとキスした。
 「あ、…いってらっしゃい」
 「うん…行ってきます」
 莉央がにこりと笑みを浮べてじゃ、とまたばたばたと出て行った。


 綾世は莉央の気配がなくなって少ししてからのそりとベッドから立ち上がってダイニングに向かうと今日はお茶漬けじゃなくて一口大のおにぎりが用意されていた。
 そしてちょっとのおかず。
 弁当までテーブルに乗っている。 
 綾世は椅子に座って頭を抱えた。


 何やってるんだ?自分は?
 人のマンションでここの住人がいないのにダイニングに座って朝ごはん?
 お昼まで貰って?
 何かおかしいだろう?
 そしてここの鍵。
 返すはずだったのに綾世がまだここにいるため鍵はまた綾世の手に戻ってきた。
 何でこんな事になってるんだ?
 綾世のペースじゃなくて全部莉央にいいようにされている気がする。
 でもそれで綾世の心の中が落ち着いているのも本当の事だ。
 食べて睡眠をとっているからか?
 それを与えているのは莉央だ。
 テーブルに用意されていた小さなおにぎりを口に運んだ。
 せっかく作ってくれたものだから…。
 あの綾世よりも大きい手で一口大の大きさに握る姿を想像してくすっと笑みが浮かんだ。


 いったい莉央は何を考えている?
 そして莉央から貰ってばっかりだ。
 温かいご飯に寝床に腕。
 かぁ、っと綾世は顔が熱くなって動揺する。
 なんだそれ…。
 別に恋人同士でもないのに!
 やっている事はこの二日を見れば同棲と一緒。
 違う!そうじゃない!
 綾世のアパートは別にあるんだから!
 今日は意地でも帰らないと。
 弁当だって用意されたご飯だって無視したっていいんだ本当は。
 綾世が頼んだわけじゃない。
 でも…そんな事も出来ない。
 莉央は分かってやってるんだ、絶対。
 いや、そうじゃなくて、根本的に何か間違っている。 
 ただの業者だけだったはずなのに。


 皿を洗って片付けを済ませる。
 着替え、と思うとまたちゃんと洗濯されてた。
 洗濯されてても3日同じ服って…。
 やっぱり何か間違っている。
 別に誰に会うわけでもないからいいけど。
 …今日は何がなんでも帰る。
 これじゃ世話になりっぱなしだ!
 何か綾世の出来る事はあるか?
 きょろりと部屋を見渡すけれど部屋は綺麗だし何もすることはなさそうだ。
 「あ…」
 今日は昼も来られないと言っていた。
 忙しいとも。
 マンションの鍵は持っている。
 勝手に開けて入るのは後ろめたいけれど、あとで何か作って置いていってやればきっと夜帰って来て食べるだろう。
 そうしよう、と綾世は笑みを浮べた。
 でもそうしても鍵は綾世の手に残ってしまうからやはり鍵は返しに来なくてはならない。
 やっぱり夜来なくちゃいけないか…。
 でもさすがに本当に今日はアパートに帰らないといけないから、早い時間に、電車がある時間に莉央に連絡を入れればいいか。
 綾世は自分の中で計画を立てた。
 昨日は莉央のおかげでちゃんと眠ったからか、しなくてはいけない事がさくさくと進んだ。
 今日もやる事がそれほど切羽詰ってはいないからきっと物事は進むだろう。 
 
  

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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