昼に莉央の置いていった弁当を食べて容器を洗い、代わりにおかずになるようなものを何品か作ってマンションに持っていった。
店のメニューにはないもの。
互いに料理を作り合うってのがどうも変な感じがするけれど。
鍵を勝手に使うのが疚しいけれど、さっと置いてすぐに出てくる。
莉央の部屋は朝と同じままだ。
当たり前だけどなんか照れくさい…。
やはり莉央は忙しいのか昼も来なかった。
綾世もバイトの電話が鳴ったりで忙しく時間を過ごし、気付けばもう日は暮れていた。
時計を見るともう夜8時を過ぎている。まだ莉央は帰ってきてないのだろうか?
莉央の事だから置いてきたものを見れば連絡をくれると思うのだが…。
綾世も今日はもうそろそろ終わりにしてもいいかな、と思った時だった。
携帯が鳴ったのにどきりとする。
「もしもし」
『綾世さん!ありがとうございます!今帰ってきたんだけど!』
「…いや」
『すみません。連絡も入れられなくて!携帯が会社からの連絡で鳴りっぱなしでバッテリーも切れてたんです』
「いや、だから別に構わない」
『つれないなぁ…。ところで綾世さんは?もう出られます?』
「ああ?何が?」
『アパートまで送っていきますって言ったでしょ?』
「いいよ。電車で…」
『ダメです。じゃ今から行きますね』
「莉央!?いいって!」
ぶつっと電話が切れた。
それから5分かからずに店の前に車がハザードを点滅させて停まると、カランと音をさせて莉央が現れる。
「……いい、って言ったのに」
「だってそれじゃ明日まで会えないじゃないですか!綾世さんは?今日はもう終わっていい感じなんですか?」
「ああ」
「じゃ戸締りして来てください。俺、車乗ってますから。あ、急がなくてもいいすよ?」
莉央がそう言って車に戻るのに綾世ははぁ、と溜息をつく。
だからどうして…。
そう思いながらも莉央の顔が見られてほっと安心もしてしまった。
ダメかもしれない。
電話にも嬉しさを感じてしまった。
そしてこうして来てくれたのにも。
ダメだといった綾世に莉央が一体何を思ってこうしてるのかが分からないけれど、どうにももう綾世の中では歓迎できない方向に向かっていっている。
なんで人は人を好きになんてなるんだろう…。
それで幸せになれるならそれでいいけど、絶対苦しい思いってのは多かれ少なかれあるはず。
はぁ、と綾世は嘆息する。
明日まで会えないって…。
待つって何を?
いや、考えるな。
そう思いながらも綾世は莉央が待っていると思い、戸締りをして店の電気を消した。
断ってもきっと莉央はなんのかんのと理由をつけて絶対引かないだろう。押し付ける感じはなく、やんわりとだが、でも莉央は自分の思い通りに事を運ばせないと気がすまないらしい。
でも無理強いではないんだ。
さっさとアパートに帰るのが得策だろう。
莉央だって仕事をして疲れているだろうに…。
外に出ると車に寄りかかりながら莉央は煙草を燻らせていた。
「もういいんですか?」
「ああ。アパートもどうなっているか…もう4日、5日帰ってないから」
まぁ、とくに生活というほど生活もしていなかったから何ともないとは思うけれど。
「乗ってください」
莉央は煙草を消して車に乗り込んだ。
綾世が住所を言うと莉央は黙って車を走らせた。
仕事で車を運転しているからか住所だけで道は分かるらしい。
「近くなったら後は案内してください」
「ああ……悪い、な」
「いいえ?だって綾世さんおかず用意してくれたから俺、今日しなくていいし」
「……僕ばっかり…世話になってる、から…」
「いいですよ?もっと世話しても?」
「バカな事を」
夜のネオンの光る景色に視線を向ける。
莉央の方は向かない方がいい。
どうしたらいいのか…。
きっぱりと突き放した方がいい?
でも業者で結局顔は合わせる事になる。
しかも別に莉央には何を言われたわけでもないのだ。
そう、何も。
待つ、と言っただけだ。
でも何を待つんだ?心が開くのを、と言ってはいたけど…。
そしてふざけたようにさっきみたいに綾世にけしかけてくる。
でもそれ以上に押してはこない。
でもキスする。
普通に。
それをいつも綾世は拒絶もしていないのだ。
朝はぼうっとしているから!
「綾世さん」
「ん?」
信号で車が止まった時に呼ばれて莉央に視線を向けると一瞬でまたキスされた。
思わず固まってしまう。
いい、こんなの流せ。流してしまえ…。意識するな。
綾世は何事もないように装った。
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