警察に連絡したのは莉央で、応対も莉央がずっとしていた。
動揺している綾世に警察も同情的だったが元々部屋には着替えと必要最低限のものしかなかったので、高価な金品が盗られたわけでもないのにまた後日改めて、という事になった。
莉央が自分のトコにつれていきますから、と自分のマンションの住所を告げているのも綾世は上の空で聞いていた。
なんでこんな目に…。
「綾世さん、着替え持てる分持っていきましょ?とりあえず着替えだけでいいでしょ?」
「あ、ああ……」
まだ動揺して考えられない。
「適当に詰めちゃっていいすか?…綾世さんもはい、持って」
こくりと綾世が頷くと莉央がてきぱきと服を詰め、綾世にも持たせて車に運ぶ。その間も綾世は莉央のいいなりの人形のようになっていた。
「じゃ、あとは任せて帰りますよ?」
「え?あ、…ん………」
「………綾世さん、一回手離してもらっていいすか?車乗れない」
はっとしてずっと掴んでいた莉央の服を掴んでいた手を慌てて離した。
「すまない」
「全然。はい、乗って?」
莉央がドアを開けたので黙って乗り込むと莉央もすぐに車に乗った。
座席はベンチシートで莉央が運転席に座ってすぐにぐいと綾世の身体を引き寄せた。
「掴まってていいすよ?」
「…ん…」
心が寒い。
不安がどうしても拭いきれなくて綾世はおずおずと莉央の服を掴んだ。
自分は弱い。
もしここに一人で帰ってきていたらどうなっていただろうか?
「莉央……悪かった…ありがとう」
「全然構わないですよ。よかったです。ついてきて」
くすと莉央が笑った。
ぐだぐだと過去を引きずる自分がいやだ。
傷はまだ痛みを訴えている。臆病になっている。
でも莉央は今こうして隣にてくれている。
「…どうして、だ…?」
「え?」
莉央は綾世の欲しいものをくれるのだろうか?
莉央がきょとんとして綾世を見ていた。
「莉央は、…どうして…こんな……?」
「分かるでしょ?」
「…分からない」
莉央がくすりと笑った。そして綾世の頭を肩に抱き寄せる。
「運転中危ない」
「大丈夫です。………さっきも言いましたけど、まだ1週間も経ってませんけど、…好きです。一緒に暮らしましょ?」
「……全然僕の事なんか知らないだろ」
「知りませんよぉ。当たり前です。でも分かってる事もありますよ。律儀なとことか。寂しんぼなとことか」
「寂し…んぼ……って……」
「でしょ?いつも寂しそうです。儚げだって言ったでしょ?」
そういえば前に言われた。
「それに寝てる時、離れると必ず擦り寄ってくるんですよ?」
「………は?」
「手で体温探して。も~それが可愛くて可愛くて。朝起きるのに離れたくなくて、そんで昨日も今日もばたばたでした」
かっとして綾世は顔が熱くなった。
「…そんな、事、ない」
「綾世さんは寝てるから知らないんでしょ。そうなんです!……前の彼氏にはそうじゃなかったんですか?」
「………一緒に眠った事なんてない」
莉央が片眉を上げる。
そしてにやりと笑った。
「ふぅん…そっか。なんだ。…綾世さんのそんな可愛いとこ知らないんだ。ふぅん…」
そして莉央の口の端が緩んでくる。
莉央が嬉しそうにしているのを見て綾世はまた恥ずかしくなってきた。
「それはいいんですが、綾世さん返事は?」
「え?」
「え!?じゃないでしょ!ひでぇ……俺、好きだって言ったのに。ホントは待とうと思ったけどやっぱ俺性に会わないし」
「…それ、待つって何…?」
「だから前も言ったけど頑な、でしょ?何があったか知りませんけど、必死に一人でって感じで。だから放っておけないような感じ。大丈夫って守ってやりたいなぁ、とか…もう溢れちゃって」
臆面もなく言う莉央に聞いている綾世の方がさらに恥かしくなっていく。
「もうさぁ…初っ端から特別でしょ?虹よ?虹!店の名前も虹で、これは運命!?とまで思いましたよ。いきなり綾世さんは綺麗だし!で、次の日行ったら今度はいきなり名前呼び!」
「それは!確かに悪かったと…」
「いえ、全然悪くないですけど。本当にだいたいみんな俺の事は名前呼びなんですけど…。ただいきなり<莉央>って言われてもうドキッとしましたもん。普通は名前でいい?とか苗字覚えられないから、とか注釈つけてくるのに、綾世さんは普通に莉央って!」
ぶっと莉央がふきだしている。
「…………」
それに関しては何も言えない。
「それで?綾世さん、答えは?」
くす、と莉央が笑った。
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