「分からない…」
「はぁ?」
「だって!……莉央はキライじゃない…。どっちかって言えば好きだけど…」
「どっちかって言えば、とけど、を取ってもう一度お願いします」
きっぱりにっこり言うのに綾世はじろりと莉央を睨んだ。
「……もう少し、待ってくれない、か…?まだ自分が分からない…」
ふぅ、と莉央が大きく溜息を吐き出した。
「仕方ないですね。待ちます、と言ったんだから待ちます。嫌われてないのも分かっているし身体の相性もいいみたいだし?」
「……そん、な…」
「大事ですよ~」
「そう、なのか…?」
「は?何言ってるんです…?………あの、綾世さん?」
「ん?」
マジですか?と莉央がじっと綾世を見ていた。
「う~~~……色々聞きたい事はありますけど…徐々に、ね。とりあえず今日は遅いですから帰ってさっさと飯食って寝ましょう」
時間はもう11時を過ぎていた。
「とにかく綾世さんはあのアパート危ないしウチにいてください。いいですね?何か取りに行く時も一人でダメです。いいですか?」
「……分かった。けど、でも…そんなに甘えて…」
「だから!いいです、って言ってるのに。俺が心配なだけなんで綾世さんは気にしないで下さい。それでそのままウチ住んでくれりゃいいんです」
いいのか、それで…?
綾世が返事する前に車は莉央のマンションに到着した。
ずっと乱れてた心が大分落ち着いている。莉央のおかげだ。
きっと自分だけだったら行く宛てもなく途方に暮れていただろう。
「綾世さん一個荷物持って。はい」
バッグに詰めた荷物を持たせられると残りのポリ袋に詰めた分を莉央が持ち、空いている片手は手を繋がれた。
「こ、…誰かに、見られたら…」
「もうこんな遅い時間ですから会いませんよ。静かにね」
莉央がくすっと笑う。
引っ張られるようにして莉央の部屋までエレベーターで上がった。
「とりあえず荷物そっちの部屋に置いててください。最初にご飯です!腹減った」
けっこう食べる莉央はこんな時間まで食ってないんじゃ腹減ってるはずだろう。
思わず笑ってしまう。
あんな事があったのに笑えている自分に綾世自身も驚いた。
莉央がいるからだ。
分かっている。自分だってもう莉央に惹かれている。ただ、自分の中のけじめがまだついていないだけなのだ。
空いている部屋に莉央に言われたとおりに荷物を置くと莉央がキッチンから声をかけてきた。
「綾世さん、風呂の栓してボタン押してきて?」
もう綾世は客ではないらしい。
頷いて綾世は莉央の言われた通りにしてくる。
「座ってていいすよ?」
「いや、手伝おう」
キッチンに並んで食器を出したり温め直してよそったり。
今日は綾世が作ったものだ。
「いただきます」
莉央は今日はビールはいらないらしい。ビールより食欲か?
「美味い!幸せ!」
よほど腹が減っていたのかがつがつと食べていく。
綾世も味を確かめながら口に運んだ。
幸せそうな莉央の顔を見るのが嬉しいと思う。
今までこんな事思った事などなかった。
莉央には待ってと一応いったけれど、これはやっぱりそういう事だろうと思う。
でもまだ1週間も経っていないのだ。
「優しい味ですよね!綾世さんの料理って」
「…は?」
「いっつも思うんですけど」
「…僕のが?優しい味なのは莉央の方だ」
「え?……マジすか…?」
莉央が大きく目を見開いたと思ったらにこりと笑った。
「嬉しい…すね」
そして莉央がはにかんだ。
そういえば営業スマイルを見ていない。
綾世はじっと莉央を見た。
「なんすか?」
「いや、営業スマイルがないな、と思って」
すると莉央がふきだした。
「あはは…!だって隠す必要なくなったですから!あれは綾世さんに俺の疚しい気持ち知られたら引かれちゃうかなぁ、と思ったんで。それなくなったら隠す必要ないでしょ」
疚しい…って…。
思わず綾世は視線を莉央から逸らせた。
「返事は待ちますけど、俺、黙って待ちませんから。だって嫌われてないのわかるし、ね?」
くすと莉央が意味ありげに笑う。
「キスだって嫌じゃないみたいだし」
「あれは、朝でぼうっとしてるからっ」
「朝じゃなくたってヤじゃないでしょ?」
「自信過剰なやつだ!」
「じゃなきゃ営業なんて出来ませんから」
ふふんと得意気に莉央が笑う。
「……色々話しましょう?まだ全然知らないけど、知るのに時間はいっぱいありますよ?」
「……………」
自信が持てる莉央が羨ましい。
綾世はにこやかな表情の莉央をじっと見た。
テーマ : 自作BL小説
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