バイトの面接。バイトの問い合わせの電話。警察からも電話。
今日はなんとなく落ち着かない。
「オープンは来週金曜日だけど水曜日と木曜日に研修するのでじゃあ、その時間に来てください」
「はい。よろしくお願い致します。でも…本当にいいんですか?」
「いいよ。隠す事だって出来たのにあえてそうしなかった所が。僕はそういう人が好きだ」
「……ありがとうございます」
バイト決定1号くんが頭をさげた。
態度も言葉遣いもちゃんとしてる子だ。
「こちらこそ。来週からよろしく」
そう挨拶したところにカランとドアの開く音がした。
「綾世さ…あ…失礼しました」
莉央が荷物を抱えて姿を見せたけど、バイト君の存在にしまった、という顔をしていた。
「彼は業者の平山くん、ここに暇たって顔出すと思うから覚えておいて?莉央、バイトの杉浦くんだ。夜に入ってもらう」
「平山 莉央です。ここには昼夜問わず来る予定なので覚えてね?」
「杉浦です」
「じゃ、来週からよろしくね」
バイト1号杉浦君は頭を下げて挨拶すると店を出て行った。
「すみません!」
「いや。もう終わってたし」
莉央が荷物を客席のテーブルに置きながら謝っているのに綾世はくすりと笑った。
「…男の子じゃないですか!」
「…だな。それが?」
「男の子取らないって言ったのに!でも、まぁ、あの子も綺麗系だし…大丈夫、かな…?」
「は?何が?」
「ああいう子ならまだいいですけど!ガタイがいい奴とかはダメですからね!」
「だから何が?」
「バイトです!俺心配で…。絶対綾世さん惚れられる。面接俺も一緒に見たい位だ…」
「………何言ってるんだ…?」
どうやら莉央は余計な心配で気を揉んでいるらしい。綾世ははぁ、と思わずため息を吐き出した。
「しかしあの子も綺麗な顔してましたねぇ…眼鏡が残念だ」
「目あまりよく見えないらしいよ。普通にじゃなくてなんか先天性の病気で」
「…もったいないっすね。で、綾世さん採用するんだ?」
「…だって、正直だろう?見た目にはそんな目の病気なんて分からないのにはじめに言うんだ。普通自分に不利なんだから隠す事だろうが。そういう子は好きだ」
莉央がくすと笑うと綾世の頭をよしよしと撫でた。
「……なにする」
「いやぁ、いい人だなぁ、と思って。そんで損するんでしょうね…。俺いくらでも手伝いますから!俺はそういう綾世さん好きですよ?」
「な、に…言って……」
「今のは人間的に、って意味です。ああ、個人的にも勿論好きですけど」
「……うるさい」
くすくすと莉央が笑っている。綾世は自分の顔が赤くなっているのが分かっていた。
「あ!前に言ってた木箱も持ってきたんですけど見てください。何個いりますか?適当に持ってきたんですけど」
莉央は自分の事を決してごり押ししない。今だってさらりと話題を変換させるのだ。
莉央と一緒に車に確認に行くと確かに木箱はいい感じだ。
「うん。いい」
「でしょ?頑丈だから外に椅子代わりに並べてもいいかもと思って。ただこのまま置いてたら持っていかれるかもしれないから今度ホームセンターで何か買って固定させるなりしたほういいかも。今度の休みに俺してあげますね?」
「……ありがとう」
素直に礼を言うと莉央は満足げだ。
「荷物厨房の方に運びますか?結構いっぱいですよ?」
「ああ、頼む」
「じゃ、俺運びますんで綾世さん次々片付けてってください。あと俺も手伝います」
「ああ。分かった」
会社の車だろう莉央のバンの荷物を積むところが結構な量になっている。
片付けるのも一苦労しそうだ。
莉央が運んで片付けてどうにかやっと落ち着いた。
閑散としていた厨房がいくらかましになってまた一段と店らしくなってくる。
「これから注文の分が毎日入ってくると思うんで」
「分かった」
確実に進んでいる。バイトも一人決まって加速していくように感じてしまう。
「綾世さん。腹減った」
「すぐ作ってやる」
莉央がお腹を押さえてそう言ったのに思わず笑ってしまった。
パスタを茹でて莉央の分だけ作ってやる。それにサラダとスープも。
そして椅子に並んで綾世が開くのは莉央の作ってくれた弁当箱。
「……おかしくないか?」
「何がです?」
莉央は味わいながら、そして満足そうにパスタを食べている。
「なんで僕が弁当?」
「綾世さんが普通に自分で作ったやつも食べるなら用意しないけど、自分作ったのあんま食べないでしょ?だからです」
「………」
確かにそうだけど…。
「……弁当、美味い、よ」
「綾世さんのパスタもホント美味いです!」
…やっぱり、どうしたっておかしい、と思う。
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