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St.Valentine’s Day  1

 もうすぐバレンタインデー。
 高校から付き合って、今は一緒に生活するようになった。
 3年後には一緒に暮らそうと永瀬が豪語した通り、今、本当にそうなっている。


 永瀬は大学に進学した。
 本当ならばVリーグからもスカウトもあったのだ。
 それを蹴っての進学。
 …多分それは悠のせい。
 Vリーグチームに属すれば試合や遠征で一緒にいられない事が多くなるからだ。


 永瀬はそんな事言わないけれど…。
 悠は専門学校で2年間スポーツトレーナーとしての勉強だ。
 その間一緒にいられるように…だ。きっと…。
 永瀬は家の意向だから、と言ってるけど、多分違う。
 きっと永瀬がVリーグに行く、と言いきれば反対はされなかったはずなんだ。
 自分は永瀬の邪魔でしかないのでは、という思いはきっとずっと消える事ないと思う。
 男、というだけでも問題なのにさらに目の事もある。
 幸いにも病状は止まっているけれど。
 一緒に生活といっても料理は永瀬がしてくれるし、その他の出来る事は悠だってするけれど、負担じゃないはずないんだ。
 

 せめていくらかでも永瀬の為になにかしたい、と図々しいと思いながらも悠は口を開いた。
 「あの…川嶋さん」
 「うん?」
 バイト先のオーナーの川嶋さんは器用にパスタを作っている。
 他の料理もあっという間にぱぱっと作ってしまう。
 鮮やかな手つきで簡単そうに見えるけどそうじゃないんだ。


 「こんな事…すごく失礼だと思うんですけど…。………あの、簡単に作れる料理を教えていただけませんか…?」
 「え?」
 川嶋さんが綺麗な顔を上げて洗い物をしている悠を見た。
 川嶋さんはすごく綺麗な雰囲気がある人で柔らかい印象だけれど、いつも料理に対してはストイックで真剣なことは見ている悠にも分かる事だった。
 そしてお客さんの声が聞こえるといつも嬉しそうに微かに笑みを浮べる姿に悠はいつも目を惹かれてしまう。


 「俺、いっつもしてもらってばかり、だから…たまには…と思ったけど、どうしていいか…」
 ルームシェアしているのは知っているから、誰の事を言っているかも川嶋さんは分かるはず。
 その川嶋さんはきょとんとした表情で悠を見ていたが、くすと笑った。
 「いいよ。簡単で見栄えよくて美味しいのを教えてあげるよ」
 ぱっと悠は顔を上げて、思わず笑顔が零れた。


 聞いたら川嶋さんは星を獲得する位のお店をしていたらしい。
 それなのに何も知らない悠に教えてくれる、と言ってくれるような人だ。
 そもそもバイトだってはじめに目の事を言ったにも関わらず使ってくれるような人なんだ。
 そしてううん…?と川嶋さんが首をかしげて悠の顔を見るとにこりと笑顔を見せた。
 「杉浦君バレンタインデーはバイト休みだったよね?」
 どきりと悠の心臓が跳ねた。
 「え、あ…はい」
 「バイト休みの日にあれだけど、僕のディナーの仕込みの時間にちょっとここに寄れるかな?」
 「…え?あ、の…?はい…。大丈夫です、けど…」
 「うん。じゃあ濃厚な小さめのチョコケーキ用意しておいてあげるから取りにおいで。…特別だから他のバイトやパートさんには内緒だよ?」
 にこりとして告げられた川嶋さんの言葉にかぁっと悠の顔が真っ赤になった。
 もしかしなくても全部分かられてる!?


 ひそかに川嶋さんにチョコも頼めないかな、と思っていたのだが、さすがにそこまで口に出来なかったのに川嶋さんの方から言ってくれるなんて。
 「僕も莉央に作るし。ついで」
 川嶋さんがくすと笑って唇に人差し指をあてた。
 そんな川嶋さんが可愛い、と悠でさえ思ってしまった。
 歳は10も上なはずなのに全然そうは見えない。
 バレンタインデーはいつも何もした事なかったけど…。
 恥かしくてチョコなんて買いに行けなくて、せいぜいコンビニでチョコのスィーツ買う位だったけど…。


 「……ありがとうございます」
 分かられてるのが恥ずかしいと思いながらも嬉しくて悠は頭を下げた。
 「いいえ?いつも助かってるから」
 くすくすと川嶋さんが笑ってる。
 「料理はそうだな…。バイトの時間より早めに来られるかな?ディナーのオープン前だとお客さんもいないし」
 「はい!お願いします」
 「がんばっておいしいの食べさせてやって?ま、僕が教えるんだから美味しくないはずないよね?なぁんてね」
 「ありがとうございます」
 今年は特別なバレンタインデーになりそうな感じだ…。
 いつも永瀬に貰ってばっかりの悠が永瀬の為にちょっとだけお返しが出来そうな気がした。
  
  
 

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