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St.Valentine’s Day  2

 「練習いつ?」
 バイトを終え、アパートに帰ってきて永瀬が用意してくれていたご飯を一緒に食べて片付けも終えて、落ち着いた頃に何気ない風を装って聞いてみた。
 永瀬は大学の他に悠の兄のチームに混じっての練習もしていた。
 「ん~と、12、14、15日だっけかな」
 よし!
 悠は心の中で思わず拳を作った。
 14日も練習があるなら帰ってくるのは夜7時位だろう。
 「14は行くのやめようかなぁ…。だって杉浦バイト休みだろ?」
 「ダメ」
 「じゃあ練習見に来る?」
 「行かない」
 たまに永瀬について一緒に練習を見に行く事もあった。兄の所だとチームの人は悠のバレーの腕も目の事も知って、練習後に内緒でコートを貸してくれる事もある。
 そこで永瀬とするアタック練習が大好きだけれど14日はダメだ。


 「え~…杉浦冷たい」
 だって仕方ない!
 「永瀬はちゃんと練習してきてね?」
 にっこりと笑って永瀬に言えばう~、と唸りながらも分かった、と溜息を吐きながら頷いている。
 「じゃあ後終わったらどこか食べ行く?」
 「行かない」
 それも即座に断る。
 永瀬がちょっと恨めしそうな目で悠を見ている。
 その目がバレンタインデーなんだけど…?と訴えているのに悠は知らんふりをした。
 すると永瀬は諦めたのかそれ以上何も言わないでふぅと吐息をついている。


 「杉浦」
 ソファに並んで座っていた悠の身体を永瀬が抱きしめてきた。
 いつも迷惑かけてごめん…。
 悠は永瀬の服をぎゅっと掴んだ。
 帰ってくるとすぐに悠は眼鏡を外す。
 外では外さない眼鏡だけれど永瀬の前では必要ないから。
 「杉浦…」
 永瀬の大きな手が悠の黒い髪をかき上げそして顔を寄せてくると唇を重ねた。



 バイトよりも早めの時間にバイト先、リストランテ・アルコバレーノに行った。
 「おねがいします」
 川嶋さんとそして莉央さんもいた。
 二人にあれこれ指導してもらいながら悠は初めてと言っていい料理に挑戦だ。
 視界がはっきりしない悠のためにあまり細かな作業のいらない料理をわざわざ川嶋さんが考えてくれたらしく、そんなに包丁を使って刻んだりという神経のいる行程はあまりないみたいで悠はほっとした。
 「う~~ん…杉浦くん、かわいいねぇ!あ!綾世さん、これは大事な人の為に頑張るところが可愛いという意味ですからね」
 「………別に何も言ってない」
 そんな仲のいい二人に悠も思わずくすっと笑ってしまう。
 いいな…といつも思う。
 対等で大人な二人に。
 自分は永瀬の負担でしかないのに…。それなのに永瀬を離せないんだ。


 「杉浦くん?どうかした?」
 顔を俯けた悠を莉央さんが覗き込んできた。
 「いえ…いいな…と思って…。俺…目の事あるし…あいつの迷惑にしかならなくて」
 そう言ったら莉央さんが声をたてて笑い出した。
 「綾世さん!聞きましたか?同じような事言ってますよ~」
 「笑うなんて失礼なヤツだな。こっちは本当に思ってるのに」
 「余計な考えですって!杉浦くんも!大体迷惑だと思ってたら一緒にいないでしょ」
 そう、だけど…。
 「あのね?迷惑だなんて言われるより好きだと言われるほうがずっと嬉しいよ?ねっ!綾世さんも!分かりましたか?」
 「うるさい。ほら莉央はもう仕事の時間だろ!」
 「おっと!そうですね、じゃあ行ってきます。綾世さん、また夜に!杉浦くんはがんばってね」
 莉央さんは笑いながら出て行ってしまう。


 「……杉浦くんの気持ちは僕もよく分かる…。けど、莉央が言ったのが正解だと思う」
 「…そう、です……か?」
 「ああ」
 川嶋さんが幸せそうに笑った。
 その満足そうな笑顔に悠はやはり羨ましく思ってしまう。
 こんなに綺麗に笑えるなんて…。
 いつも後ろめたい気持ちでいっぱいな自分とは違う。
 自分もこうなりたい。
 でも莉央さんは川嶋さんが悠と同じ事を言ってる、と言った。
 それでもこうなれるのだろうか…?
 とにかく今は永瀬の為にがんばろう、と真剣に川嶋さんの説明に耳を傾けた。


 「杉浦?バイトの時間長くない?なんでお店5時からなのにそんなに早く行くの?」
 永瀬はバイトは基本していない。というより出来ない。バレー中心なので土日も練習があったり試合があったりするから。
 「どうしても」
 まだ内緒。永瀬を驚かせてやりたいから。
 でも永瀬は面白くなさそうにしている。
 「忙しいんだ。ごめんね?」
 首をかしげて笑って言えばはぁ、と永瀬が溜息を吐き出している。
 「なんか俺ばっか杉浦の事好きすぎる…」
 そんな事ない。永瀬より悠の方が執着してるのに。
 永瀬の為には離れた方がいいのに離してやれないほどに。
 
 
 

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