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St.Valentine’s Day  3

 川嶋さんからプレゼント、とチョコケーキを渡されて、頑張って、と声をかけられたのに悠は照れくさくなりながらもこくりと頷いてアパートに戻った。
 永瀬はバレーの練習でいない。


 その間に、とチョコケーキを冷蔵庫にしまって教えて貰った料理を一人で作っていく。
 パスタを茹でるのと肉を焼くのは永瀬が帰ってきてからだけど、パスタのソース、マリネとスープも作っていく。
 まるでレストランのようなディナーだ。
 教えてくれた人がシェフなんだから当然だけど。
 不安で味見を何回もしながらどうにか準備を終える。
 あとは永瀬が帰ってきてからだ。
 時計を見るともう練習は終わった時間なはず。


 その時ポケットの携帯が着信音を告げるのに悠は急いで携帯を手に取った。
 「もしもしっ」
 『杉浦?今、家?』
 「ん」
 『ごめん、ちょっと遅くなる。先輩に無理やり店に連れて来られた。なるべく早く抜け出すから』
 今帰る、という連絡だと思ったのにそうじゃなかった…。
 「…………うん…分かった」
 『ごめん』
 「いや、じゃあ」
 悠の今までの上がっていたテンションが急激に下がってしまった。
 なんだ…遅くなるのか…。
 悠はソファに座って小さく膝を抱えた。
 せっかく驚かそうと思ったのに…。
 悠だって内緒でやっていた事だったから何も言えない。
 だいたい今までだって別にバレンタインデーだからって特別に何をしてきたわけでもないし当たり前だと思うけど…。


 「永瀬のバカ…」
 なんで肝心の時に遅いんだよ…。
 せっかく川嶋さんに時間を割いて教えて貰ったのに。
 チョコレートケーキまで貰ったのに。
 …そうは言ったって自分が隠してたから仕方のない事だ。
 こてんと悠はソファに横になった。
 「…早く帰って来いよ…」
 小さく呟いた。
 


 「杉浦っ!ただいまっ!」
 がちゃがちゃと鍵の開く音がしてバタンというドアの音と一緒に永瀬が飛び込んできた。
 「すぐよう、い……え?」
 小さな二人掛けのダイニングテーブルに並んだ料理に永瀬が目を白黒させていた。
 「杉浦…?」
 「…おかえり。用意、する」
 呆けている永瀬の顔を恥かしくて見られなくて、悠はささっとソファから立ち上がって小さめのキッチンに向う。
 部屋はそんなに大きくない二部屋。寝室は一つでもう一つの部屋はそれぞれの荷物を置いている。
 キッチンも大きくはなくて、身体の大きい永瀬には正直キツイと思う。
 「す、杉浦…?」
 その永瀬が慌てて悠の後ろに立った。
 「あの…コレ…もしかして…」
 「……川嶋さんに教えてもらった」
 永瀬に背を向けたまま悠は小さく囁いた。
 「…バイトの時間長かったのって」
 「…教えてもらってた、から…。いつも永瀬にばっかり…俺も…少しは…」
 ぎゅっと永瀬が悠の身体を抱きしめた。


 「悠」
 ずるい。こんな時に名前呼ぶなんて。
 「永瀬」
 悠は永瀬の腕を解いて冷蔵庫を開けた。
 「これは…川嶋さんに…作ってもらったやつだけど…」
 「杉浦っ!」
 また永瀬が思い切り抱きしめてくる。
 「永瀬…」
 莉央さんに言われた言葉を思い出す。
 「…好き、だ」
 永瀬の腕の中で小さく悠が囁くと永瀬は悠を今度は離して頭をがりがりとかきはじめた。
 「遅くなってごめん!」
 「いや?それは…仕方ないし…」
 「断ろうと思えば断れたんだ!でもつい…。杉浦全然俺の事どうでもよくなったかと思って」
 「…そんな事あるはずない」
 「うん。ごめん。悠、俺も好き。もうどうしようもない位!バイトにも行って欲しくない位」
 「…それはダメ」
 「分かってるけど!…悠、…名前呼んで?」
 「…大海…」
 永瀬が悠の頬を包むとキスする。
 何度も何度も。
 「永瀬、だめ…せっかく、つく…たんだから…」
 「うん。でも嬉しくて…どうしよう…」
 よかった…。
 嬉しそうに顔を紅潮させて幸せそうな永瀬の顔に悠も嬉しくなる。
 はっきりと見えない視界だけれど永瀬の表情は分かる。
 川嶋さんに見えたような満足そうな顔が永瀬にも見えた。
 自分もああいう風に幸せそうに見えるのだろうか…? 
 永瀬にこういう顔をさせたのが自分なんだと思えればやっぱり嬉しくなって悠の顔も綻んだ。
 
 
 
                         Fin

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