「そういや綾世さん掃除機かけてくれたでしょ?ありがとうございます。掃除機はね~!朝っぱらからかけられないし、夜もこんな時間じゃかけられなくて」
ちゃんと莉央は分かっていたらしい。
「僕が出来るの少ないみたいだから。でしゃばったかな、とも思ったけど」
「いえ!助かります。埃見てみぬふりでしたから」
「……それはいいけど。彼女とは、その…それだけ…か?」
「そっすよ。でも凹んだのは本当ですよ?何ダメだったんだろう?って」
莉央が苦笑した。掃除機で話題を変えようとしたんだろうけれど。
「………莉央がダメじゃなかったからダメだったんだろ」
「え?……そう、ですか?」
「…だと思うけど?女にしたらきっと自分がダメだしされているように感じるんじゃないのか?」
「………そう、ですかね?」
そんなつもりなかったんだけどな、と莉央は呟いてそして考え込んでいる。
「莉央、煮立ってる」
「あっ!」
味噌汁が沸騰しかかって慌てて火を止めた。
「………悪い。こんな事聞いて」
「いいえ?いいですよ。綾世さんが俺に興味あるって事でしょう?」
「…そうとは言ってないけど?」
軽口が楽しい。
「後でいいから綾世さんの話も聞かせてくださいよ?」
「……そのうち、な…」
「……さ、ご飯にしましょ?」
莉央はそれ以上突っ込んで聞く事もしないで軽く流した。
綾世は自分は話さないのに莉央に聞いてしまった事に罪悪感を感じる。
自分からあれこれ聞くなんてことした事はないのだが、なぜ莉央には自分から口を開いてしまったのか。
「……美味しそうだ」
テーブルに並んだ料理を見て思わず呟いた。
特に酢豚が。
「食べて下さい!酢豚はね、自信ありますよ?」
得意そうに莉央が言う。
そういえば冷蔵庫に中華用の調味料がいっぱい入っていた。
「今度中華教えて欲しい」
「え?綾世さんに?何言ってんですか!」
「いや、中華は得意じゃないんだ。…いただきます」
早速酢豚を食べると莉央が期待の目で綾世を見ていた。
「ん。美味い!」
「よかったです。いっぱい食べてください。綾世さんいつも俺の3分の1も食べないんじゃないですか?」
「莉央が食べすぎだと思うけど?……よく太らないな…」
「だって俺仕事で走り回ってますもん」
朝ばたばたと出て行く莉央を思い出してくすっと笑いが漏れた。
「洗い物はしておくから莉央先に風呂どうぞ?」
他人と住むなんて初めての事だけど莉央といるのは全然苦じゃない。
「う…ん…」
莉央がずっと頭を何回も捻っている。
「どうかしたのか?」
「いえ…なんでですかね?綾世さんいるのが全然苦にならないっていうか、むしろいてくれた方が落ち着くっていうか…」
考え方というか、思いがシンクロするのに綾世は思わず瞠目してしまう。
「ま、いいや…じゃお願いします。風呂行ってくる」
しきりに首をかしげながら莉央は風呂に行った、
ここでしなくていいです、とか言わない所がいい。
そんな事言われた方がかえって遠慮とかされてそうだから。それに、綺麗な莉央のキッチンの片付けをしていいと許可が出たのと同じだ。任せていいと思われたということ。
綺麗に並べられた食器類、器具。洗って拭いて元あった場所に戻していく。
テレビからニュースが流れている。
なんか普通の生活な感じがする。
先週の今頃は一人で気負って必死な思いで日を過ごしていたのに莉央と会ってからそれがない。
何なのだろう?
好きだ、と言われた事を思い出してかっとすると朝の事とか昼の事まで連動して思い出してくる。
一緒に寝て、キスして行ってらっしゃい言って、昼食一緒にとって、おかえりなさい言われて、夜も一緒に食べて…。
こんなの初めてだ。
綾世は片付けを終えるとリビングの方に移動し、ソファに座って流れてるテレビをただぼうっと見ていた。
昨日は空き巣なんてあったはずなのに、あの時はあんなに動揺してたのに、あとは全然だ。
全部…。
莉央に会ってから精神的に全部が楽になっている。
莉央に嫌な所も嫌いな所もない。
いい所、かっこいいとこはいっぱいあるのに。それは増えてくのに。
「綾世さん」
風呂を上がってきた莉央がソファの隣に座ると綾世の身体を抱きしめてくる。
それが綾世の心をぎゅっと苦しくした。
莉央…。
腕を取ってもいい、のだろうか?
でも…。
風呂どうぞ、と言いながら莉央が綾世から腕を離したので綾世は逃げるように風呂場に向かった。
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