たった1週間にも満たないのに…。
莉央の存在が大きく育っている。
虹の話もしようか。どれだけ虹が綾世の特別か…。
とはいっても莉央にしたら、なんだたったそんな事、と思うかもしれない。
でも綾世の中では特別だ。
店の名前にまでしたのだから。
誰にもそんな事は言った事がないのに。
でも莉央は虹を口にする。店の名前も虹って分かっていた。
なんかもうどれもが莉央が特別だ、と告げられているようなものだ。
その莉央と見た虹はやっぱり特別なのか?
そんなの綾世にだって分からない。
バイトも決まっていく。
店の開店に向かって着実に進んでいた。ばたばたと忙しい。でも先週よりもずっとゆとりを感じられる。
今日はバイトの面接と、あとは莉央に持ってきてもらった材料でデザートを作った。
時計を見て、今日はもういいか、と作ったドルチェを莉央に試食してもらおうと手に持って莉央のマンションに帰る。
久しぶりに早い時間だ。
店が始まったら早い時間い帰るのは無理だ。
不安は尽きない。けれども先週までの悲壮感は綺麗になくなっていた。
莉央のマンションの鍵を使ってそっと中に入る。
どうしても人の家に勝手に入っているようで後ろめたいが、持ってたドルチェを冷蔵庫にしまって、さて何を作ろうかと悩んだ。
食材を勝手に使っていい、と莉央は言っていたけれど…。
家事が完璧と自分で言っていた莉央はちゃんと風呂も洗ってあるし、本当に綾世の出来る事は少ない。
いったい綾世よりどれ位早起きなんだろうか?
もうぐっすりと安心しきって眠ってしまっている自分が申し訳なくなってくる。
朝ごはんも昼の弁当も押し付けがましくはない。けれども綾世が断れないようしにしてくる。
でもそれが嫌じゃない。
そして会話の中で莉央に考えを読まれているのかと思う事がある。思っていた事を言われたり、返事されたり…。
同じ感性をしているという事なのだろうか?
今まで誰にもそんな事感じた事などなかったけれど。
綾世は莉央といるのが当たり前のように感じてしまう位だけれど、莉央は疲れないのだろうか?
「全然」
先に帰ってきて夜ご飯の用意をしていた綾世にただいま、と帰ってきて照れたように言う莉央に綾世も面映くなりながらおかえり、と迎えた後、自分がいるのに疲れないか、と聞いてみた後の莉央の返事がそれだった。
莉央はスーツを脱いでロンTとジーンズに着替えてくるとキッチンに一緒に立つ。
「不思議なんですけどね…。それに俺、本当は自分のキッチン触られるのやなんです。それに味も。俺ならこうするのになぁ、とか…つい思っちゃうんですけど。でも綾世さんには全然思わないのが不思議で…。まぁ、綾世さんが使った物はちゃんと元の所に戻すし、綺麗にしてくれてるのが分かるからでしょうけど。料理も美味い…しか出てこないし」
「……そう、なの…か?」
「ええ、ホントに。それにねぇ…なんか話してるとたまに同じ事思ってる時あんですよね。あ、今同じ事言おうかと思ってた!ってのが」
「……それは、僕も感じてた」
「綾世さんも?……あ、それうまそ…味見!」
野菜をサイの目に切って浅漬け風サラダを和えてたのにあーんと莉央が口を開いたのでスプーンで放ってやる。
「あ、ウマ。ご飯欲しい。…ぷぷっ!新婚さんみた~い」
ふざける莉央のわき腹を小突いてやる。でも莉央は全然気にしないし、さらに綾世を後ろから抱きしめてきた。
「…邪魔」
「ん~~~…分かってるけど。……いいなぁ、と思って…。仕事から帰ってきてウチがいい匂いがしてるっていいすねぇ」
「……店始まったら出来ない」
「ん。そん時は俺が待ってるからそれはそれでいいですけどね」
「……ほら、並べて」
莉央は綾世を離すと出来上がった料理をいそいそと運んだ。
「いただきます」
莉央は今日もビールはいらないらしい。
一通り箸をつけて美味しい、と莉央が顔を綻ばせるのを見るのが嬉しい。
食べる、と言ったので一応綾世も箸をつけていく。
やっぱり莉央のをご馳走になっている時より少なくなってしまうのは仕方ない。
「綾世さん、土曜日忙しいですか?」
「ん?それほどでもない、と思うけど」
「アパート解約しに行きましょう?」
確かに部屋のあの散乱した状態を思い出せばとてもじゃないけどまたあそこに帰りたいとは思えない。
「ね?」
いい、のだろうか…?
「もし綾世さんが新しいとこ探すにしたってあのアパートに帰るのはなしです。心配で俺寝てられなくなる。犯人捕まってないんでしょ?」
「…連絡はないな」
「荷物も運びましょう。俺会社から大きい車借りてきますから。荷物もあんまりなさそうだし二人で大丈夫ですよね?人手いるなら頼むけど」
「多分大丈夫だろう。そんなにないし…」
「…でもそしたら金曜日エッチなしだなぁ」
う~ん、と残念そうに呟く莉央に綾世はテーブルの下で莉央の足を思い切り蹴った。
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