莉央はただ静かに綾世の落ち着くまでそうしてくれていた。
いい年した男が泣くなんてみっともない。
どうしたらいいだろう、と思っていると莉央が口を開いた。
「いいんです。もっと出して?綾世さん…」
「………みっともない」
すん、と鼻が鳴る。
「全然?綾世さん」
莉央が綾世の頬を手で挟んだ。
「見るなっ!みっともない…」
顔を背けようとしたけれど莉央の手は離してくれない。
「全然みっともなくないですよ?…綾世さんはいつも綺麗です!それに俺、嬉しいし…」
莉央はちょんとキスして綾世をぎゅっと抱きしめた。
「ちゃんと話してくれたって事は、俺との事考えてくれてるって事でしょう?」
「………そんな事言ってない。だいたい、嫌だろう…こんな奴。それに莉央は元から男が好きなんでもないだろ。こんな不毛な道にわざわざ進まなくていいだろう…」
「ん~~~…まぁ、確かに男が好きなんじゃないですけど。でも綾世さんは好きですよ?全然嫌だなんて思わないし。今ここにいてくれて感謝します」
感謝って……。
綾世は莉央の顔を見上げた。
「ねぇ、一つ確認なんですけど」
「?」
「その男以外に綾世さん知ってる男っているんですか?」
「!」
にっこりと莉央がなんでもない事のように聞いてきた。
「………お前、だけだっ」
それに、こんなに幸せな感じも、大事そうに抱かれたもの、一緒に眠ったのは全部初めてだ。
「ん~~~と…スミマセン。俺は何人か知ってますけど…いや、男の人は勿論綾世さんだけすけど。そんな俺じゃ綾世さんは嫌ですか…?」
「……別に……」
そんなのは当然、だろうとは思うし。
「ん。だから俺だって気になりませんよ?…いえ、正直言えばかなり気になりますけど!」
…どっちだよ?
「でも過去は過去で消せないから…でも、今現在からこの先は綾世さんだけでいいと俺は思ってるんですけど?」
「そんな、事…」
「ええ、分かりませんけど。でも今、そう思ってます。こんなに欲しいと思った人は始めてです…。一緒にいたい。ずっと腕の中に入れておきたい。そんなの初めて思いました。……今まで正直自分で俺、人を好きになるのに感情が欠落してんのかなぁって思ってましたけど。だって彼女いたって正直ウザいなぁ、面倒だなぁ、と思う事あって…。そんで結局ここ借りても声もかけなくてあげく別れて凹んでるって自業自得だと思いますけど。でも今それでよかったと思ってますよ?全部綾世さんと繋がるための布石だったのかなぁ、とさえ思います」
莉央は何を言うのか。
綾世は顔を俯けた。
いい、のだろうか?本当にこの手を取っても?
「綾世さん、好きです。一緒にいてください。もっともっといっぱいお話しましょう?これから先ぶつかるかもしれない。何かあるかもしれない。でも守ってやりたい。それは変わらない。絶対に嫌いになる事はないです。………あ、でも俺がそうでも…綾世さんは…分からない、ですよ…ね……」
綾世は首を振った。
「ない、よ。多分」
だって虹を一緒に見たんだ。あれはやっぱり特別だったんだ。
「莉央……本当に、いい…のか?」
「勿論です。綾世さん?言って?」
「………僕も、好き、だ。…莉央」
莉央がぎゅうっと綾世を抱きしめてきた。
そして綾世を抱き上げる。
「莉央っ!?」
「ベッド行きましょ?」
「っ!」
「もう、どうしようもない位綾世さんが欲しい。…って我慢出来なくて手は出してましたけどね。だって誰かに取られたら困るし。アパートにも帰したくなくてあの手この手考えて。どうやったら俺んとこに留められるかなぁって。言っては何ですが空き巣にはもう大感謝しましたよ!」
莉央は綾世を担ぐようにしてリビングの電気を消すと寝室に向かった。
綾世は莉央の首にしがみつく。
「初めて会った日からもう綾世さんが頭から離れなかった。どうしたらこの人を手に入れられるんだろう、ってそればっかり考えてた。男も何も考えてませんでしたよ?…自分でもおかしいと思うけど」
寝室に入ると莉央は綾世の身体をベッドに横たえた。顔が熱い。
「俺がここに住んでたのも、綾世さんが地元の小さい業者に見積もり依頼したのも、虹が出たのも、空き巣入ったのも、こうして一緒にいるのも、惹かれるのも全部必然…。違いますか?」
「…………違わない……」
そう、思いたい。
「うん…。今まで綾世さんは一人で辛い思いしてたと思うけど、これから俺がついてます。……ってあてにならないかもしれませんけど」
綾世は首を振った。
「……もう…大分助けられてる…。会ってから、ずっと…」
莉央が面映そうににっと笑みを浮べた。
テーマ : 自作BL小説
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