「好きです。綺麗なとこも。一人で頑張ろうとするところも。それなのに弱い所も。感じやすいとこも。それでいて初心な可愛いところもね」
「な、に…を…」
「朝、綾世さんが幸せそうに眠ってるとこ見るの好きですよ?それでもいってらっしゃいって言って欲しくて起こしちゃうけど。寝てても俺に擦り寄ってくるのもチョー可愛いです。あんまり食べない綾世さんが俺の作ったのを美味しいと言ってくれるのも好きです。律儀なトコも…全部好きです」
莉央が羅列する言葉に綾世はかぁっと耳まで熱くなってくる。
「…恥ずかしいからヤメロ」
「なんでですか?…そういうとこも可愛いから好きですけど」
「お前!僕の方が年も上なのに、しかも男なのに可愛いも何も…」
「だって可愛いですもん」
莉央が綾世のこめかみにキスする。
そして莉央の手が綾世の服の下に忍び込むと素肌をなでた。
「ぁっ!」
ぞくりと肌が粟立った。
「莉央…」
好きだ。そしてそれを返してもらって。
今までにない位綾世の気持ちの中に充足感が満ち足りていた。
気持ちを押し付けられる事しかなかったのに莉央とはそうじゃない。
アイツの事が好きなのではないかと思っていたけれどそうじゃなかった。
莉央といて違いが初めて分かった。
全然違う。
「莉央…」
なんて言ったらいいんだろう?
「……あっ!」
「え?」
「莉央!冷蔵庫!ドルチェ作ったんだ!試食してもらおうと思って!」
綾世は急に思い出して思わず莉央の服を掴むと莉央は一瞬驚いた顔をしてからぷっとふきだした。
「……………それもとても魅力的なんですけど、今は目の前の人の方が魅力的です。後で一緒に食べましょう?今はダメ」
「だ、って…」
「後でちゃんと持ってきてあげますから。今は綾世さんが欲しい」
莉央が唇を重ねるともう綾世の意識は莉央にだけ向かってしまう。
…だめだ。
綾世だって莉央を欲しいと思ってしまっている。
幸せを感じてもいいのだろうか?
ずっと自分はおよそ幸福感というものに縁はないと思っていた。
唯一思えたのは自分が作った物を食べて幸せそうな顔をするお客さんの顔を見る事だけだった。
自身が幸せだと感じられなくとも自分の料理で幸せな顔を作ってあげられる、それが自分の生きる糧だった。
…綾世にはそれしかなかった。
ところがいつの間にかそれさえもなくなって歯車が狂いだしたのだ。
店舗が増えていって綾世はメニュー作りに追われた。
レシピどおりに作られる自分の料理。
おいしいと輝かせるお客さんの顔は見えても自分の手を通したものじゃないそれに違和感があった。
莉央に試食してもらったその時の莉央の顔を見て思い出したのだ。
「…綾世さん、何考えてるんです?」
莉央がむっとした顔をしたのに思わず綾世は笑ってしまった。
「莉央の事…。全部…莉央が僕を変えていくから…」
莉央は目を大きく見開いて、そしてくすと笑った。
「俺が?」
「そう」
「そんなわけないでしょ」
「…それがある、んだ。…んっ!……」
莉央の手が綾世の服を全部剥ぎ取って自分も脱ぐと素肌が合わさり、綾世の身体に触れてくると思わず声が漏れてしまう。
だって人肌がこんなに気持ちいいのも知らなかった。
「そういう可愛い事ばっかり言うんだから…」
「だって…本当の事、だ…や、め……」
「やめるわけないでしょ」
莉央の指が綾世の後ろを伝って中に入ってくると、ぞくぞくと綾世の背を快感が駆け上っていく。
「莉央…」
好きだ…。言ってもいいだろうか…?
綾世は莉央の首に腕を巻きつけた。
「好きです。綾世さん…」
「ん…僕、も……莉、央……ぁ……」
莉央の深いキスも、手も言葉も全部が綾世にこれまで感じなかった安心を与えてくれる。
「あ、…ぁっ……」
莉央が中に入ってくる。
充足感と幸福感で心臓が苦しい。
きっともうこれを知ってしまったら甘えてしまう。
「莉、央…」
いつか虹の事も話しをしよう。
莉央は馬鹿にするだろうか…?
いや、莉央はきっとするはずない。
テーマ : BL小説
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