重い体をどうにか頑張ってホームセンターまでいって莉央の持ってきた木箱の固定する材料を買いに行った。
といっても綾世はただついて歩くだけ。
それで手一杯だったという事もあるけれど。
店に行っても莉央は腰が軽く、ぱたぱたと動いている。
綾世はメニューをPCからプリントアウトしたり、と動かなくていいものばかりの事をこなした。
少しずつでも出来る事を。
開店はもう今週だ。
バイトの研修もしなくてはならないし大変だ。
「ねぇ、綾世さん、定休日日曜なんですね?」
莉央が店のドアのガラスに張り出したものを見て聞いてきた。
「ああ。どうしようかと悩んだけどな…。人通りを見ていたらここらは日曜は人通りが少ないから」
「まぁ、そうですね…。住宅も多いし。わざわざ家の近辺でディナー、はしないかな…。でも綾世さんの料理だったらそれもあるかもしれないけれど」
「休みなしはさすがに無理だ」
「ですね。綾世さん一人だし。あ、土曜は俺手伝いますよ~」
「………よほどの何かがあれば、な」
「なくても。ま、入り浸るつもりだからいいですけど。でもそうすると日曜一緒にいられるんですね!」
「……新メニュー考えたりしなきゃないから」
「いいですよ!いられるならなんでも!俺、試食係は専属でお願いします」
莉央は何が楽しいのかにこにこ顔だ。
近辺が日曜に人通りが少なくてよかった。多かったらさすがに店を開かなければならなかっただろう。
そうしたら莉央との休みはどうしたって合わない事になる。
仕事に私情を挟むのは嫌だったけれど、そこにどうしても考えが向かってしまうんだから仕方ない。
よかった、と安心したのも確かだ。
今日みたいな過ごし方が出来るのだろうか…?
こんなに仕事以外の事を考えるのは初めての事だ。
…また初めて、だ。
仕事以外は自分はまったくガキと一緒じゃないかと綾世は自分で少々がっくりしてしまう。
開店に向けバイトの研修なども始まった。
人数もシフトも綾世の思っていた通りに仕上がった。
マニュアルも前の店での経験が功を奏してスムーズだ。
小さい店でも一流の店と同じ提供が出来る。
あとはもう進むしかない。
開店の日、莉央はお得意様の開店のお祝いとお手伝いを兼ねてと会社に言い訳して綾世の店にいた。
莉央の会社で綾世はほとんど店に必要な物品をそろえたのでかなりの売り上げ金額になったし、それで上司にも快く承諾されたらしい。
莉央の会社からのお祝いの花を入り口に飾り、そしてその莉央は洗い物などを手伝っていた。
ランチを終わって莉央は一回会社に戻って夜にまた仕事終えてから来て手伝ってくれて。
さすがに開店には大勢のお客さんが入ったので莉央の助っ人はかなり助かった。
出だしは上々。
料理の反応もかなりいいようでとりあえず安心した。
また来ますという言葉、おいしかったですという言葉が聞こえ、どれもが嬉しかった。
まるで嵐のように走った厨房はお客さんも捌け、静かになっていた。
バイトも帰し、店には綾世と莉央だけになった。
「綾世さん、お疲れ様でした!疲れたでしょう?」
「……さすがに…。訳分かんなくなるかと思った…」
次々と入るオーダーに綾世がいっぱいいっぱいになりそうになって、助けてくれたのは莉央だった。莉央はホールにも注意を払ってバイトが戸惑っているのも助けてくれたりと綾世の目が届かないところまで手助けしてくれた。
しかも莉央の人柄か、人当たりもいいし、押し付けがましくもないし、挙句の果てにはお客さんからのオーダーしてからの料理が出てくるのが遅いなんてクレームにまで対応してくれて。
そこはさすが営業で、にこやかに対処してくれて。
「…莉央……」
「ん~~?なんですか?」
莉央は後片付けをしてくれていた。綾世はレジの締め。
「………ありがとう。本当に助かった」
「いいえ~!どういたしまして。まぁ、こんなに馬鹿みたいに一気に入るのは今日位でしょうから。あとは大丈夫でしょう。バイトの子達もなかなか使える子ばっかでしたね!」
莉央が満足そうに笑っていた。
「安心したし!」
「何が?」
「え?そりゃ、綾世さんによからぬ思いを向けそうな子もいなかったなぁ、と」
「……何を言ってるんだか…」
ふっと綾世は脱力する。
「だってお客さん達も綾世さんの姿に気付いた人が料理出す窓口から一所懸命綾世さん見ようとしてたんですよ!…隠したけど!料理出来たの窓口運ぶの厨房のバイトにさせてください」
「…バカ」
綾世はふっと笑いを漏らした。
テーマ : 自作BL小説
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