ランチは午後2時まで。その後一旦店を閉めて、パートを帰し、莉央の作ってくれる弁当を食べて、その後ディナーの仕込みや翌日のランチの準備をする。その時間に莉央が配達に来る事もあるし夜帰る前の時もある。
連日客の入りは順調で予想していたより回転率もよかった。
限定のランチも好評で週ごとに替わるメニューに毎週来てくれる人も出てきた。
俄然綾世だってがっかりさせないようにと張り切ってしまう。
週末の休みの日曜の昼には莉央に食べてもらって確認してもらうのがいつもの日曜の過ごし方になってきた。
莉央は今日は集金があるからとクローズの時間に来ない日。
カランと店のドアが開いた音がして綾世は厨房から客席の方に出た。
「すみません。ランチは終了で夕方は5時からなんですけど」
綾世は店に入ってきたのだと思ってそう言ったがどうも様子がおかしい。
「………」
女の子だった。
子ではないか。きりっとスーツを着ているのでOLだろう。
「……莉央と…どういう関係?」
綾世はびくっとしてからその女性をじっと見た。
ちょっとキツイ感じの美人だ。
「どういう?そういうあなたは?」
もしや、という思いが頭をよぎる。
「…一緒に住もうと言われた、のよ」
やっぱり…。
彼女だ。
でもふられたって莉央は言ってた、はず?
それに一緒に住もうとは言えなかったとも…言ってた、はず。
「ちょっと頭を冷やそうと思ったの。そしたらその間に…。莉央のマンションに一緒に帰るってどういう事?」
どうやら莉央はまだふられてなかった、…らしい?
しかも綾世と一緒の所を見たのは一度だけではないのだろう。
それはいいけど莉央が彼女と別れたのはいつだ?それは聞いてなかったけど、綾世が莉央の所に来てから最早1ヶ月になろうとしてるのにその間に連絡も何もなかった、…はず。
憶測でしかないけれど…。
しかも莉央にではなく綾世に言ってくるのは何故?
どう、言えばいいのか…?
「……莉央の所にいるのは僕のアパートに空き巣が入って住めなくなったからだ。たまたま莉央がそれを聞いて行くあてのなかった僕を置いてくれてる」
これはパートはバイトの子達にも言ってある。
そうじゃなきゃ業者が土曜の度に店に入り浸ってるのがおかしいから。
勘のいい人は気づいているみたいだけど特に言及されてもこないので放っている。
嫌なら辞めてもらえればいいだけの話だ。
「じゃあ早く次のアパート探して出て行って欲しいんだけど」
綾世はかちんときた。
なんで莉央が別れたと思ってる彼女からそんな事を言われなきゃないんだ?
「…それを君から言われる筋合いはない。僕は忙しいんだからそんな用事なら出て行ってくれ」
冷たい言い方になっても仕方ない。
女はぎっと綾世を睨むと足音を大きくたてて店を出て行った。
思わず綾世はほっと息を吐き出した。
さてどうしたらいいのだろう…?
莉央に言うべき?言わなくていい?
気分がいいわけは無いけれど別に何をされたわけでもないし言わなくてもいいだろう。
なんとなく気が滅入る。
自分が女だったら黙って言わせておかないところだが。
どうしたって後ろめたいところはある。
自分にではなく莉央にだ。
自分はいい。はじめから女は好きにはならなかったから。でも莉央は…。
そうは思うけど今現われた女を見て思わず考え込んだ。
美人な方だろう。でも…
「………趣味悪」
思わずそう呟いて綾世は慌てて自分の口を押さえた。
もっと可愛らしい人が似合ってる。あれはどうみたってプライドも高そうだし莉央に大人しく、なんて出来ないだろう。
それにこうして莉央にではなく綾世に言ってくる事自体が間違っている。
それは男、女の関係なく、人として間違ってるはず。
とりあえず今の事はいいや、と綾世は莉央には言わない事にした。
ぐるぐると頭の中で莉央の事を考えてしまう。
そしてさっきの彼女の事。
デートしたりしたのだろう。
思わず二人が並んでいる所を想像しかけて綾世は頭を振った。
そんなの考えたっていい事なんてない。
ただの綾世の僻みだ。
今は莉央は自分を見てくれているはず。
たとえ表立って堂々と出来なくても自分にはもう莉央しか考えられない。
莉央も同じかどうかは知らないけれど、今は綾世の事を大事にしてくれているのは分かる。
莉央に会いたい…
会って安心したい、と思わず思ってしまった。
テーマ : 自作BL小説
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