莉央とぎくしゃくした感じは残っていても、朝いつもと同じようにそっと莉央に起こされていってらっしゃいの挨拶とキスを交わす。
いつもだったら莉央がいなくなっても綾世はベッドから起き上がれなくてぐだぐだする時間を過ごすのだけれど、今日はのそりと起き出した。
綾世がするのはゴミだしとか、ほんの些細な事だけ。
莉央の用意してくれたご飯を食べて店に向かう。
店に弁当を置いて、銀行に向かい、昨日の売り上げ分を納め、そしてコンビニに寄った。
雑誌のコーナーで賃貸情報誌を眺め、そしてちょっと悩んだ末一冊購入する。
店に戻ってさらりとそれを視線で追ってから溜息を一つ吐き出して綾世はランチの仕込みを始めた。
まだ店のドアは閉まっている。
開いているのは厨房の方の出入り口で業者が野菜を届けにきたりするのだが、そのドアからとんとんと音がした。
業者には入ってきていいと言ってるのに…?
綾世は濡れた手を拭いて搬入口のドアを開けた。
「っ!」
立っていたのは莉央の彼女。
「土曜日に莉央が会ってくれるの。……早めにマンションから出て行ってください」
唐突に告げられる。
その表情は得意気で背は綾世よりも小さいのに上から見られているように感じた。
ああ、やっぱり土曜に会うのは彼女なんだ…。
「……別に君に言われる筋合いはない」
まだ足掻く自分に嫌気が差す。
だって莉央から言われたわけじゃない。
でも…莉央は言えないのかもしれないではないか。
綾世の言葉にきっ、と彼女は綾世を睨んで去っていった。
また今日も一日憂鬱そうだと綾世は溜息が漏れた。
綾世の沈んだ空気に莉央が戸惑っているのは分かっていた。
でも自分から切り出す事も出来ないでただ時間だけが過ぎていく。
ぎくしゃくはそのまま何日も持続している。
それでも莉央は変わらないように話しかけてくれる。
でも綾世の気持ちの中がどうしても後ろ向きになっているので上の空という事も再々だった。
何度も土曜日に会うのは彼女なのか、と聞こうと思った。
店にも何度も来ているのだとも言おうかと思った。
でもそれが告げ口をしているように思えて言えない。
そして莉央も土曜に誰かと会うという事は言っても、誰とまで明言していなかったのに、聞きだすなんて出来ない。
莉央が、彼女から連絡来て会うのだ、とでも言ってくれれば実は…と綾世も言えるのに、と自分に言い訳をする。
自分から話しだす勇気もないくせに…。
彼女と何もないなら言ってくれてもいいのに…。
言ってくれない莉央も自分から聞けない、言えない綾世も同罪だ。
だって綾世は怖い。
莉央からさよならを言われる位なら自分から消えたほうがましかもしれない、などとかなり考えが後ろ向きになっていた。
余計な事を言って莉央にウザイと思われたら?
面倒だ、なんて思われたら?
それじゃあの彼女と一緒だ。
「綾世さん」
「ん?」
ベッドに入って莉央が綾世の上に乗ってきながら綾世の顔をじっと見た。
「…俺、なんかしましたか?」
「いや、何も…」
「じゃ、どうして毎日溜息つくし元気ないんです?…俺、ウザイですか?」
「まさかっ!そんな事ない…」
自分はもうこんなに莉央しかいらなくなってるのに。
「またその顔…。最近その顔するの多いです。泣きそうなのを我慢してる感じ…」
そう莉央が感じているのは間違ってないだろう。
心の中ではずっと泣いているのかもしれない。
不安がずっとつきまとっている。
綾世は首を横に振った。
明日は土曜日だ。
莉央は彼女と会ってくるのだろうか…?
「莉央…」
綾世は莉央の首に腕を回した。
「……して…」
「……いいんですか?…ずっと綾世さん疲れてるって言ってたし…」
「いい。……いっぱい、して…ほし…」
自分はずるい。
明日莉央が彼女と会うと分かっているのに自分からこうしてるんだ。
「綾世さん」
莉央が唇を重ねてきたのに自分から舌を差し出した。
欲しい。離したくない。明日行かないでと本当は言いたいんだ。
「莉央…莉央…」
「綾世さん…?本当にどうか…?」
綾世は首を横に振って莉央に縋る。
「して……。莉央…くれない、…のか…?」
「んなわけなでしょ!綾世さん…好きです」
莉央の目が優しく綾世を見ていた。
「僕もだ……ごめん……」
離してやれなくてごめん。
「ごめんってなんですか?意味分かりません。それよりいっぱい俺を埋めていい?」
「…いい。莉央…」
莉央が綾世の服を剥いで身体中にキスしていく。
莉央がこうしてくれていれば幸せだ…。
テーマ : BL小説
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