「相手の事思って言わない事がいい事じゃない、ですね…?」
「ん……。でも僕は自分が…告げ口をするような気がして…。それにやっぱり莉央には女の子のほうがいいのかな…とか、思ったし…」
「それは綾世さんが勝手に思っただけでしょう?」
莉央の腕はずっと綾世の身体を抱きしめている。
「そうだけど……。だって…莉央は普通に女の子を抱けるのに。僕みたいな…」
はぁ、と莉央が溜息を吐き出しながら綾世のこめかみにキスした。
「女、抱けますよ。男は抱けません。でも綾世さんは別です。だって綾世さんですから」
「……意味分かんない」
「そうですね。でもじゃあ綾世さんは?男なら誰でもいい?」
綾世はぶるぶると首を振った。
「無理だっ」
「…そういう事ですよ」
分かったような分からないような…。
「いい…莉央がいてくれるなら…」
「うん。俺も綾世さんいてくれるなら…。今度から我慢しないでちゃんと言いましょう?もし万が一また真紀が行くようでしたら俺と恋人だとはっきり言ってくれていいですから。いえ、むしろ言って下さい。俺は言ってきたんで」
「え!?」
「宣言してきましたから。そんで邪魔するな、と。だから綾世さんが否定したりしたらかえってまたおかしくなるんで」
「…そんな、事……」
「いいです。俺はカミングアウトしても別にいいんですけどね。綾世さんが気にしてるでしょう?」
「僕は気にしていない。バイトも取る時に本当は自分は女は好きになれないと宣言しようかと思ってた位だから。言うのはやめたけど。莉央がいたから…。僕はいいけど、莉央がそう見られたらって…」
「俺も別にいいです。それに勘のいい子は分かってるでしょう?」
「……多分ね」
「自然に…でいいんですよ。気負うこともないし隠す事もない。自分から吹聴しなくてもいいし。自然のままで…ね?」
「…ん」
莉央の優しい声が耳に心地いい。
そう言われてみれば自分自身に雁字搦めになっていた気がする。
自分で鎖を巻いて自分で締め付けていたのか?
自分がこうだから回りを巻き込んでいってしまうのかと思っていたけれど…。
そうじゃない…?
今初めて自分が自由だと感じられた。
「莉央……」
「うん?なんですか?」
「ありがとう……本当、に……」
「綾世さん…?どうした…?泣いてんの?」
「ん」
莉央に抱きついて静かに涙を流した。
「嬉しい…」
莉央が優しく背中を撫でてくれる。
「どんだけですか…ホントにもう…。だから放っとけないし、守りたいって思うんですよ。俺なんもないですけど、どうやら綾世さんにとっては特別らしいので増長してしまいますよ?」
「全然してない…。莉央はいっつも僕のいいようにばかりしてくれる。僕が嬉しい事ばかり…いつも…申し訳ないなと思いながらも嬉しくて甘えてばっかりいる」
「そうですか?俺自分に都合いい事ばっかしてるなぁ、と反省してるんですけど。だから嫌われたのかな、とか思って」
「全然…嫌いなんて、嫌なんて思った事ない…もっと、もっと、ばかり思ってしまう…」
「そう、なんですか?もっと、もっと…?俺、もうちょっと出してもいいですか?かなり抑えていい子ぶってたんですけど」
「抑えてた…?」
「ええ!ほんとはお風呂一緒入りたいなぁ、とか。もっと触ってたいとか、イタズラしたいな、とか!いつもいい子ぶってオトナなふりしてましたけど」
「………………」
そんな事?
綾世は涙の止まった潤んだ目で莉央を見た。
「ダメですか?ダメっていうなら我慢すっけど」
「……別にダメ、じゃないけど…それの何が楽しいんだ?」
「楽しいですよ~!絶対」
「?」
「ウチ風呂もわりと大きいし。ね?」
にこにこと莉央が笑顔を見せている。
「結構強引にしても綾世さん嫌じゃない?」
「莉央は強引ってわけじゃないし…平気だと思うけど」
そもそも莉央に対して嫌と思う事がない。
「じゃ本当に嫌な時だけは断っていいですから。俺増長しちゃっていい?」
「いいよ」
「じゃ、綾世さんもいっぱい色々言ってくださいね?抱いてとか入れてとか触ってとか…」
「……なんで全部そっちなんだよ…」
「だって、あんまり言わないし、よくないのかなって思ってたから」
「……いい、よ……よすぎる、位、だ……」
顔が熱い。こんな事言わせられるなんて思ってもみなかった。
「……だから、可愛いって」
莉央が力を入れて抱きしめてキスしてくればすぐに綾世も応じてしまうのだった。
テーマ : 自作BL小説
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