莉央に話を聞いてもらって、相談にも乗ってもらい綾世は売上額が合わなすぎるので午前で一度レジを締めてもらうように決めると、それをバイト、パートにも告げた。
ホール担当の者からその日のレジ担当も決める事にした。
厨房の方はホールに出て行く事はないので、ホールの者にだけ。
それでしばらくは合わないという事が出なくなった。
という事はかえって今までのがやはり故意に行われていたという事か、と綾世はやるせなくなってくる。
でもそれで収まったのならそれでいい。このまま出なければ…。
しかしまたほとぼりが抜けたのか合わない日が出た。
もったのは2週間だけ。
11月に入ってすぐの事だ。
「…また、今日合わなかった」
マンションに帰ってきて、綾世はキッチンに立っていた莉央の背中に頭をつけながら小さく告げた。
「……2週間だけ、すか」
莉央は身体の向きを変えて綾世を抱きしめてくれると背中を優しくさすってくれる。
「今度はちゃんと見つけて処分を下さないといけませんね」
莉央が小さく呟くのに綾世もこくりと頷いた。
「…やなもんだ」
「やった人が悪いんです。綾世さんが凹む事ないですよ。ランチ?夜?」
「午前は合ってた、と報告されてる」
「午後…?」
莉央が怪訝そうな声を出した。
「まだ決め付けるのは早いですね。きっとまたします。もう一回様子みますか?それとも警察?」
綾世は首を振った。
「警察は…そこまで…」
「うん…。綾世さんの店で警察沙汰ってのも嫌ですね。……前に綾世さんに聞いてシフト表に書き込んでいったでしょ?アレ見て綾世さんもある程度の目星ついてるはずです」
「ん……」
「その人、今日は?」
「…レジ締め」
はぁ、と莉央が溜息を吐き出した。
「もう一回待つ必要ないでしょ。明日はシフト入ってますか?」
「…入ってる」
「もう問いただした方いいですよ。素直に認めるかが問題ですけど。ああいうのって現行犯じゃなきゃダメでしたっけ?でもそういう問題じゃないでしょ。……俺明日の午後は空いてますけど…行きますか?ランチ終わったら残ってもらって話したほういいでしょ。俺、部外者ですから…隠れてますよ」
「うん…いて欲しい」
莉央がいてくれるなら心強い。
でも本当に莉央にここまで…。
綾世が複雑そうな顔をしてるとその顔を覗きこんで莉央が笑いを漏らした。
「綾世さんが嫌なら配達の時間ずらしますよ?」
「…嫌なんじゃない。僕が…弱い、と思って」
人を信じられない。
「莉央…」
どうしようか…。盲目的に莉央だけしか信じられなくなりそうだ。
綾世の欲しい言葉をくれるのは莉央だけしかいない。
「綾世さんは全然弱くなんてないですよ?弱かったら自分で店しようなんて思いませんから。だって使われてた方が楽でしょう?でも綾世さんはちゃんと自分でやってるんです。自信持ってください。俺なんかよりよっぽど強いですよ。俺なんて臆病ですから自分でしようなんて思いませんもん。今までだって色んな事があった。それでも綾世さんはこうして店を開いて一人で切り盛りしてるんですから。…尊敬しますよ。だから俺もいくらかでも力になれるなら、って思ってるんですから。遠慮しないで甘えて欲しい位です。ね?だから気にしないでください。……さ、ご飯にしましょ?」
「…僕は莉央に助けられてばっかりだ……いつも…」
「そう思ってもらえるなら俺は満足ですよ?綾世さんの特別っていうのが嬉しいですから。それに俺だって助かってます。弁当だっておいしいのいただいてますし、ゴミだしとかも。日曜も綾世さんいつも身体酷いのにご飯用意してくれるし」
「ひどい、のは!そ、それは、莉央が悪いんだ」
「そうですけど。でも綾世さんだってもっと、とか…」
綾世は真っ赤になりながら莉央の口を塞ぐ。
「そういう事言うな!」
莉央はくすくすと笑っている。
「今までは全部一人でやってた事ですもん。それが綾世さんのおかげで楽になってますよ?」
「そう…か?……いくらかでも役に立ってるならいいけど」
「そうです。はい。運んで下さい」
莉央が綾世を離して皿によそった料理を手渡してきたのを受け取ってダイニングテーブルに並べていった。
これが男と女だったら普通に幸せな光景なはず。それが男と男なだけ。
綾世は今までにない幸せを感じる。
莉央はどうなんだろう?
満足してると言ってくれるけど本当だろうか?
信じてる。信じたい。
そう思ってもどうしても疑心は生まれてしまう自分が綾世は嫌だった。
テーマ : BL小説
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