「弁当食いましょ?」
「え?莉央まだ食ってないのか?」
時計を見ればもう3時を回った所だ。莉央の腹はかなりへってるだろう。
「綾世さんの作ってくれた弁当はまだです。外回り途中でちょっとコンビニ寄ってパンは食ったけど」
綾世が落ち込むと思って莉央はわざわざ一緒にと思って我慢してたんだろう。
「綾世さん!コーヒーおまけしてくださいね?」
「勿論」
綾世はコーヒーをセットし、莉央と並んで弁当を広げる。
「普通飲食店でお昼って、まかないとかですけどね」
「通しの人いないから」
綾世がしれっと答える。
「まぁ、綾世さん自分で作るとあんま食べないし。いいですけど。あ、俺4時には出ないと。集金あるんで」
「じゃ早く食わないと」
莉央とのこうした何気ない時間が好きだ。
綾世の事を考えてくれている。それがよく分かる。
「莉央…ありがとう。大丈夫だ」
「うん。よかったです」
莉央がにこりと笑みを浮べる。
「あっ!!!」
綾世が大きな声をたてた。
「どうかしましたか?」
莉央が驚いて目を大きく見開いた。
「あ、いや…なんでもない。ちょっと忘れてた事を思い出しただけだ」
「何ですか?」
「いや、些細な事だから…」
些細な事じゃない。
もう11月だ。
11月18日は莉央の誕生日だ。
カレンダーをちらと見れば日曜日だった。
どうしようか…。
何か莉央にしてやりたい。
そして何かプレゼント。
何がいいだろうか…?
「綾世さん?それ、美味くなかった?」
綾世は箸でおかずを掴んだまま眉間に皺を寄せて考え込んでいたのだ。
「え?ああ、違う。悪い…ちょっと考え事してただけだ」
莉央の顔をじっと見た。
莉央はいつもネクタイを締めているしスーツも多い。配達の時は上着は脱いで会社のジャンパーだけど、今日は集金と言ってたからスーツだ。
ネクタイがいいかな。いつもしてるし。
ただ買い物に行くのに莉央と一緒はダメだろ。
知らない振りして驚かしたい。
ケーキは土曜に作ろうか…いや、土曜は莉央が店にいるからだめだ。
じゃ金曜?
金曜日は莉央は午後はこないから都合がいい。
ネクタイはどうしようか…。
「綾世さ~ん?」
「ん?ああ…」
莉央の顔を凝視してずっと考えに耽っていたのに思わず苦笑してしまう。
あ、ネットで買えばいいか!店の方に届けてもらえば!
本当は実物を見て色とか肌触りを見たいけれど仕方ない。
決まった、と思わずにんまりした。
「綾世さん?…どうかしたんですか?」
「ん?いいや。なんでもない」
そういえば誰かの誕生日を一緒に祝うのも初めてだ。大勢で、はあったけどこうして個人的に、しかも大切な人というのが…。
「何か問題…ではないですね?」
「ああ。問題はないよ」
綾世は立ち上がって莉央のためにコーヒーを入れた。
そういえば店をオープンする前にコース料理を食いたいとも言ってた。
夜はコース料理にしよう。
楽しみになってきてふふ、と綾世が笑いを漏らせば莉央が怪訝な表情になった。
「綾世さん?」
「うん?」
「……ホント、大丈夫?熱とかない?なんかチョーご機嫌ですけど?」
「熱なんかないよ」
「いや、それならいいんですけど。綾世さんがご機嫌なら俺も嬉しいですし」
莉央がくすりと笑った。
綾世はあまりスーツなんて着ないからネクタイとの組み合わせがどうか悩んでしまう。
綾世は仕込みを早く終わらせてネットを眺めていた。
莉央は3、4着のスーツを着まわししている。
グレー系、紺系、茶系…
ネットに載っている写真を見て選ぶしかないけど。
いつも莉央がしているのを思い浮かべてスクロールするけど、見れば見るほど分からなくなってくる。
時間ばかり過ぎていくのに綾世は決めかねている自分に少し照れくさくなる。
自分のだったら適当に選ぶけど、どうせ選ぶなら莉央に喜んで欲しい。
慎重になってしまうのも自分で面映い。
そしてこうしている時間が楽しい。
勝手に莉央のために選んでいるだけなのに。
吟味して選んだものをカートに入れて、プレゼント用にと一言副える。
配達の日にち時間指定にして莉央の来ない時間帯に設定。
よし、と綾世は立ち上がった。
すっかり自分の中で今日まであったレジの売り上げの合わない事で鬱屈していた思いは莉央の誕生日のおかげで払拭され、気持ちは上向きになっていた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学