料理を見れば莉央とあれこれ話題は尽きない。
会席料理は料理の飾りつけの勉強になる。
「これは冷凍ですよ~」
向かい合わせにお膳が用意されて、座っている莉央が小鉢を指して綾世に教えてくる。
「……情緒がない」
「だって~~。ウチでも扱ってるんですもん」
莉央がこれはどこどこの物で、とか説明するのはいいけれど…。
「これダシなにかな?」
「どれだ?…これ?…………海老かな?」
「ですかね?今度やってみよう」
こんな会話も楽しい。
料理をしない人なら出来ない会話だ。
「料理もまぁまぁ、かな?」
「だな」
莉央が言うのに綾世も頷く。
「ヤですね~。口肥えちゃって」
「……僕はもう和食と中華は莉央の味が一番好きになってしまってる」
「やだなぁ、綾世さん、誉めすぎですよ?」
「…………」
そんな事ないけど…。
「料理だけ?」
そんな事聞かれても綾世は簡単にさらりと好きだ、なんて口に出来ない。
思わず綾世が照れくさくなって顔を俯けると莉央がくすくすと笑う。
「綾世さんてホント…」
また余計な事を言いそうな莉央を綾世がちろっと睨めば莉央は肩を竦めて口を閉じた。
「食った~。さ、お風呂行きましょ?」
莉央がにっと笑った。
「僕はあとでいい。莉央先行って」
「一緒って言ったでしょ?我慢しますんで」
「…………我慢って…当然だろう」
「え~~~…当然すかぁ?いいから、ほら、はい、立って」
風呂は外にあって露天風呂の小ぢんまりとしたもの。でも二人でも入れそうな位で、一人用だったらよかったのに、と綾世は恨めしくなる。
柵で囲われているので勿論外から見えるわけではないけれど。
「いいじゃないですか…ホントに何もしないので」
「……別にされるが嫌と言ってるんじゃないけど…」
「分かってますよ。でもせっかくこういうトコ来たんですから」
莉央が綾世の服を脱がせていけば綾世は言う事を聞いてしまう。
小さくなって湯船に入ると莉央もすぐにぱっと服を脱いで入ってくる。
降っていた雨はもうすっかりどこにも見当たらない。
元通りの晴れになっていた。
「やっぱり、さっきの虹…待ち構えてた様に出ましたね」
また同じ事を考えていた。
莉央が背中から綾世を抱きしめる。
「今度は出来れば一泊しに来ましょうね?」
綾世は小さく頷いた。
「今日は、本当に出して貰っていい、んですか?」
「いい。これ位…莉央にいつもしてもらってる事考えれば全然足りない位だ」
それに莉央の誕生日だし。
「うん。……ありがとうございます。嬉しいです。じゃあ今度は俺が招待しますから!」
綾世は肩に乗っかっている莉央の顔に手を伸ばして頭を撫でる。
誕生日だから、と言えないのがどうにも心苦しい。
チェックアウトの時間に宿を出て莉央の運転でまた帰る。
帰りは車が混んで行きよりもちょっと時間がかかったけれど、夕食にはちょうどいい時間だ。
「莉央、店に行こう」
「店に?綾世さんの?」
「そう」
「なんでです?」
「なんでも」
マンションが近くなって綾世が言った。
莉央は驚いてくれるだろうか?ちょっと緊張してしまう。
「莉央は車置いてきて」
「いいですけど…」
莉央は綾世を店の前で降ろして車を置きに行った。その間にばたばたと綾世は急いで用意を始める。
「綾世さん?」
車を置いてすぐに戻ってきた莉央が首を捻っている。
「莉央、コース料理いいな、って言ってたから…座ってろ」
「………俺も手伝います」
「いいから!」
「綾世さんも一緒に食べます?」
「ん…。僕はあんまりいらないけど…一応」
「………じゃ大人しく待ってます。でもホールじゃなくて厨房でいいです。客席だと綾世さん見えないし」
「…別に見なくたって…」
「ヤですよぉ。せっかく一緒にいるのに。それじゃ話も出来ないじゃないですか」
そう言われてしまえば綾世は何も言えなくなる。
綾世は黙って手際よくぱっと料理を作っていく。莉央も黙っていた。
本当はコース料理は1品ずつ出すけれどそれじゃ落ち着かないだろう、とパスタ以外をまとめて作り、次々と並べていく。
そしてケーキも小ぶりなホールケーキ。
それにデコレイトしていくと莉央がそれに気付いた。
「……綾世、さん…?」
いつもの二人だけの時の定位置に椅子を持ってきて座っている莉央が大きく目を見開いて綾世を見ていた。
呼ばれたのに返事はしないで、デコレイトしたケーキを莉央の前に置いた。
「……覚えて、くれて?」
「…当然だ」
「…綾世さん」
莉央が立ち上がって綾世を抱きしめた。
「誕生日おめでとう。本当は朝に言いたかったけど…ごめん」
「いいえ……ありがとうございます。うれしい、すよ」
綾世は背伸びして莉央の耳にキスした。
テーマ : 自作BL小説
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